※映画本編のネタバレをふんだんに含むので未見の方は注意&個人的な考察なのでご容赦のほど
さて、今回は最近感想記事を出したミッシング・チャイルド・ビデオテープについて、感想の方では触りきれなかった自分なりの考察を書いていこうと思う。
ちなみに短編版やパンフレットに載っていたという小説などは未見・未読で本作一本のみを見た状態での考察になるのでご留意を。
では早速始めていこう。
本編内で詳しい説明が無いタイプの映画なため多くの気になる謎を残している本作。
当然多くの疑問があるわけではあるがその中でも特に引っかかったことは大きく分けて以下の3つ。
①日向行方不明の真相
②司は何故最後ああなってしまったのか
③久住さんに取り憑いていたものは何か
上記3つについてそれぞれ考察していこう。
日向行方不明について
物語開始以前から行方不明になっていた敬太の弟・日向。
映画が進行するにつれ日向が行方不明になった摩白山について少しずつ情報が開示されていく。
- 古くから現在まで「何かを捨てる場所」として扱われてきた歴史がある
- 死体のような物理的存在はもちろん、生理のような身体機能に関わるものまで捨てることが可能
- 日向以外にも多くの人間がこの山で失踪している etc…
また、ビデオテープに残された映像内では両親にたくさん構われている日向を敬太が疎ましく思うというよくある兄弟っぽい感情も垣間見ることができる。
なのでこの辺の情報を頭に入力しつつ映画を見ていると
弟・日向を疎ましく思っていた敬太が摩白山に入ってしまい、その後をついてきた日向を遠ざけようとする素振りを山が「弟を捨てにきた」と捉え、そのまま日向をどこかへと連れ去ってしまった
という形で日向失踪の真実を想像できることが可能になっている。
しかし映画を最後まで見ると「ホントにそうだったのか?」という違和感を覚える。
問題のシーンは本編終盤、司が日向の死体を発見するところ。
敬太と日向のかくれんぼから日向失踪までの一連を繰り返すだけの映像のような世界に取り込まれた司が目撃したのは高所から落ち頭を打ちつけて大量の血を流し息絶えていると思われる日向の姿。
当然生きてはいないだろうと思っていたにせよまさかの転落という物理的な死。
もしかしたら「ぷよぷよ」なる怪異が物理アタッカーで日向を物理的に処理した可能性も否定しきれないがそれはわからない。
司の取り込まれた世界の光景が真実であるなら日向の姿が急に消えたこと自体はビデオテープに残された通り現実にあったことだろうし、怪異が高所から日向を落としたとも取れるし怪異から逃げようとして事故死してしまったとも取れる。
しかしここでの問題は日向の死が怪異によって直接的に起こったことかどうか、ではなく日向の死を13年前の時点で敬太は認識していた可能性が高いという点である。
日向の死体を発見した直後誰かの姿を見つけたように司が「敬太…」と呟いたタイミングで現実世界の敬太が同じ場所で当時日向が着ていた衣服を発見する。
ここで司が見たのは恐らく現実の敬太ではなく幼少期の敬太。
つまり幼少期の敬太はあの日、日向の転落死という事実を目撃していたということである。
しかし本編内の敬太は日向はまだどこかで生きていると信じている。
というか大規模な捜索を経ても日向の死体が発見されたわけでもないのだから公に日向の死を断定することはできずただ日向が「行方不明」でありつづけている停滞した現状にある意味で救われている精神状態と言ってもいいかもしれない。
とにかく敬太は日向の死体なんてまるで見ていないかのように振る舞い藁にでも縋るかのような想いで日向を探そうとし続けていた。
もしも敬太が日向の死体を発見していたとすればとんでもない矛盾が生じていることになる。

そこで山の怪異の特性である。
13年前、あの廃墟で敬太は日向とかくれんぼをした。
その際敬太は忽然と姿を消した日向を探すために廃墟の中を探し回った。
そこで敬太は日向の転落死体を見つけてしまう。
そして日向が死んだということを受け入れられなかった敬太はその死の事実(記憶)を捨て去ることを無意識的に望んだ。
それは日向に制止されながらも廃墟に入り、さらにはかくれんぼまで行ってしまうという日向の死の遠因を作ったことへの罪の意識からかもしれない。
怪異は敬太の望み通り日向の死体を消し、敬太の記憶からもその事実を消し去った。
物証であるビデオテープに決定的瞬間が残っていなかったのもその影響だろう。
と、つまりは現在時間軸の敬太は自分で自分に呪いをかけてしまっていたような状況だった、ということである。
弟を疎んじた敬太が日向を突き落として殺害、その証拠を消した、なんて考察もできなくもないがなんか本編内の敬太の姿を見てるとそんなことをする人間には見えず(そう思いたくないだけなのかもだけど)しっくり来なかったので個人的にはないかなーと。
(あと司の敬太の側に日向がずっといる発言からして日向を殺したりとかそういうのはないんじゃないかなとも思う。)
つまり改めて要約すると
敬太が「日向を山に捨てた」ように捉えられなくもないが実際には「自分が直面した日向の死の事実(記憶)を捨てた」のでは?
ということである。
そして一度拒絶した日向の死という事実を司の指摘&発見した日向の衣服によって時間差で突きつけられただ慟哭することしかできなかったということである。
司の最後について
そして次に司の最後について。
敬太を誘い続け連れて行こうとしていたように思われた山の怪異だが実際に連れ去ったのは敬太の相方である司の方というまさかのオチ。
どうしてそんな結末になったのか。
パッと考えつくのは2つ。
①元々敬太ではなく司が狙われていた。
敬太のために危険な場所にも突き進み敬太のためにガンガン行こうぜで行動する司だ。
敬太を山に誘導すれば司もついてくるのは自明の理。
さらには行方不明になった日向がそうであったように司自身も怪異を視ることができる人物。
怪異はそういった人物を狙う習性がある、なんて可能性もある。
確かに怪異を視れる、感じ取れるという条件はキルの確率を引き上げる要因になっているような気はするがじゃあ怪異を視れるから司は狙われ敬太を利用するなんてまわりくどいやり方で取り込まれてしまったのかというと個人的にはどうだろう…?と少なからず疑念が残る。
なのでこれはないかなと思う。
そこでもう一つの考え。
②敬太が司を捨てた。
である。
摩白山の特性である「何かを捨てる場所」。
敬太はこれを無意識的に司に対して発動してしまったという説である。
司は怪異に取り込まれる直前、敬太に「日向はとっくに死んでいて出会った時から敬太のそばに居続けている」という衝撃の事実を告げてしまう。
これがトリガーになり司は敬太から捨てられたのではないだろうか。
前項の「日向の死の事実を敬太は捨てていた」という説の続きにはなるのだが、この思わず捨て去ってしまいたくなるくらいの嫌な事実をはっきりと告げてきた相手を無意識的に拒絶してしまったということだ。
そもそも敬太は司にどんな感情を抱いていたのかが非常にわかりづらい描き方をされている。
仲は良いのだろうが司から敬太に対する重めの愛と比較すると敬太から司へのそれはそこまで大きくないように見える。
同棲してでも司のそばに居続けている理由は好意以外に何かあるのではないだろうか。
例えば敬太は司の怪異が視える体質に依存していた、なんてのはどうか。
日向の死の事実を記憶から捨て去っている敬太にとって日向の死はまだ未確定であり、探し続けている限り、物証が見つからない限りは希望が残り続けるものだ。
視える体質の司が敬太に(日向らしき)子供の霊が傍にいることを告げてこないということは僅かな希望が継続することと同義であり、敬太はそこに価値を見出し依存していたんじゃないかなと思う。
それこそ同棲して傍に居続けるほどに。
司が自分の周りに何かしらの霊がいることを指摘しないという状況に依存しつつ日向の生存に僅かな望みをかけてきた敬太にとって司から告げられた事実は衝撃的だっただろう。
捨て去ってしまいたくなるほどの日向の死の事実、それを思い切り突きつけ確定させてようとする存在を敬太は思わず拒絶してしまう。
そして司は摩白山に捨てられてしまった。
という考察。
司にとっては敬太を日常に戻したかったからこその告白だったのに、敬太にとっては一番突きつけられたくない事実だったというのはなんとも悲しいすれ違いである。
久住さんに取り憑いていたのは?
そして個人的に民宿の息子の次くらいに謎が多いままなのが新聞記者・久住である。
ボランティアとして子供を救助した敬太に取材をするため敬太・司に接近したもののなんか雰囲気で怪異騒動のど真ん中に関わってしまう羽目になったという、物語的にはかなり盤外から転がり込んできた印象の女性だ。
で、問題はこの久住さんが「一体何に取り憑かれていたのだろうか?」ということだ。
初登場時点で司に指摘を受けているように久住さんは最初から何かに憑かれている。
何かしら対応しなくてはいけないような類のものではないものの部屋の中ですら防犯ブザーを身につけていないと怖く感じるくらいに久住さん自身はその気配に怯え続けている。
しかし本編内でそこには深く触れないまま映画はラストを迎えてしまう。
いくつか考えられるが一つは
①敬太の父が取り憑いていた
である。
司に接触してすぐに久住さんのスマホに死んだはずの敬太の父を名乗る人物から「息子をよろしくお願いします」という電話が来ている。
また、防犯ブザーを家の中でも持ち始めるようになったのが最近であること、敬太の父が死んだのもここ最近であることを含めて考えると久住さんを怯えさせている霊の正体が敬太の父であるという可能性はそれなりに高い。
しかしあえてここで僕は別の仮説を立てたい。
②久住さんに元々憑いていた霊とそれとは別に敬太の父、二人分の霊に取り憑かれていた
である。

まず大前提として敬太の父は取り憑いている。
というか多分敬太の父の姿を借りた摩白山の怪異だ。
摩白山の怪異は敬太の家族である日向、お母さんの姿も使い敬太を再び摩白山へと登るように誘導していたことが本編描写からわかる。
(日向は司により日向本人でないと明言されているがお母さんはもしかしたら本人の可能性がなくもないけど…)
敬太の家族そのものが山の怪異に目をつけられていると言って良いだろう。
多分お父さんの遺品や遺骨、問題のビデオテープを息子のアパートに送りつけるなどのお母さんの不可思議な行動の数々から自死に至るまで怪異によって狂ってしまったからこその結果じゃないかなと思う。
司が見た日向の誕生日パーティのビデオや敬太の語る日向失踪後の敬太父の様子などから考えると敬太の父もそれなりにおかしくなっている可能性が高い。
まあ気丈に父として振る舞った結果の可能性もあるわけだが。
あと離婚している理由が不明だけどお父さんはお母さんに比べれば正常だった可能性も捨てきれない。息子のアパートをそれこそ摩白山の如くいらないものを捨てるための場所かのように旦那の遺骨や遺品を送りつけてくるお母さんの行動から見ても両親仲はかなりのレベルで決裂してしまっていることは明らか。
とはいえあの家族全員少なからず山の怪異に影響を受けていると思うので狂った母と別れたから父親はまとも、と断定することもできない。
お父さんが別方向におかしくなってるだけの可能性も捨てきれない。
ということで敬太の父は敬太を怪異から守ろうとしている、という可能性は確かにあるが、ここでは敬太の父も山の怪異の一部として取り込まれているという説を採用したい。
話を久住さんに戻そう。
久住さんは電話による怪異アタックを3度受けている。
①敬太の父(仮)から会ったこともない男(敬太)を託される
②司の声で電話ジャック。山に敬太を連れていくように指示される
③塚本になりすまし敬太を追いかけさせようとする
流石に迷惑すぎるこの怪異。
②では敬太を山に行かせるなという司の言葉を上書きするように「敬太と山に行け」という内容の会話ジャックを行い③では敬太が廃墟から帰ってくるのを車で待っている時に塚本の声で「追わなくていいのか」と敬太とともに山を登らせようとしていた。
つまり②③は間違いなく摩白山の怪異による誘導であり、どちらも敬太と久住さんを山に登らせようとしている。
ここから考えると同じように電話によるアタックをしてきた①の敬太父(仮)からの電話が怪異とは別の善いモノであるなんてことは考えにくい。
同じように山の怪異からの干渉である方が可能性は高いんじゃないだろうか。
「息子をよろしくお願いします」
これは敬太を怪異から助けて欲しいなんて意味ではなく、敬太をちゃんと摩白山まで連れて来てほしい、という意味だったんじゃないだろうか。
となれば敬太父(仮)はバリバリ山の怪異サイドである。
なぜ久住さんがこれほどまでに怪異に絡まれているのかについては定かじゃない。
敬太並に付き纏われている。
まだ以前に摩白山について調査していた塚本の方が狙われるのに納得がいくというもの、なのに何故ここまで敬太と接触させさらには久住さんまでも山に登らせ続けようとしたのかがわからないのである。
久住さん自身自分でも不思議に感じるほどに敬太と山、失踪事件に過剰に深入りしようとするなど彼女自身山の影響でおかしくなっている様子も見える。
久住さん自身も知らないところで家族の誰かが摩城山に関わっていてそれによって連鎖呪いデバフを受けていたなんてこともあるのかもしれないが…
摩白山についてあれほど深く踏み込んで調べていた人が自分との関連性に気づかないとは思えないのでちょっとないかなぁと。
もしかしたらどんな形であれこの山に惹きつけられた人間は例外なく怪異に囚われているのかもしれない。
これについてはまた後ほど。
で、敬太の父が山の怪異の一端だったとして、では何故もう一人久住さんに取り憑いていると主張したのかについて。
これは廃墟の中での一幕が理由である。
司と共に敬太を追って久住さんは廃墟に足を踏み入れた。
そして敬太を追うように2階へと司が進みそれに続くように足を踏み出した瞬間久住さんは何者かに腕を掴まれ身動きが取れなくなってしまう。
一見、山の怪異によって引っ張られてしまったかのようにも見えるシーンだが久住さんはこの時腕を掴まれその場から動けなくなっただけで日向や司のようにどこかに消されたわけではない。
そして大事なのは久住さんが向かおうとしていた場所が「2階」であること。
敬太の実家での敬太と司の会話や失踪した登山部が遺したボイスレコーダーなどから本作では一貫して「2階」に上がることが恐ろしいこと、不吉であることのように描いている。
その2階に上がろうとしたタイミングで久住さんは何者かに腕を掴まれて身動きが取れなくなった。
つまりこの腕は久住さんを2階に上がらせないように守っていたのではないか?ということだ。
事実そのまま2階に上がった司は怪異に取り込まれてしまうこととなったわけで。
敬太と関わるように促してきた敬太の父がもし久住さんの腕を掴んだ霊と同一だとするなら、敬太を追うべく駆け上がろうとするその動きを制限するのは腑に落ちない。
なので久住さんに電話でコンタクトを取っていたモノと久住さんの腕を掴んでいたモノは別の存在。
つまり
片方は敬太の父や司、塚本になりすまし電話で久住さんと敬太を山へと導こうとしてきた山の怪異。
そしてそれとは別に久住さんのことを守ろうとしている霊も久住さんのそばに居続けていたのではないかということだ。
それこそ敬太のそばに居続けた日向のように、久住さんの親族の誰かが守護霊のようにあり続けたのかもしれない。
敬太を待っている間車の中で怪異に久住さんが脅かされる場面でも防犯ブザーが突然鳴り響きそれと同時に司がやってきて命拾いしている様子が見られるが、この防犯ブザーを鳴らしたのも久住さんを守っている霊の仕業じゃないかなーと個人的には考えている。
とまあ敬太と司を軸にした構成である以上そこまで深く掘り下げられていないせいで謎を多く残している久住さん周りだが、とりあえず久住さんに取り憑いているのが何なのかに関しては敬太の父ともう一つ、久住さんを守ろうとしている守護霊的な存在ではないかという説を個人的には採用したい。
ただもし久住さんを掴んだ腕が久住さんを守っているモノだったとしたら、久住さんは「離して」と呟きその瞬間腕は忽然と消え去ってしまったわけで。
それって摩白山が「捨てた」と判定して守護霊がいなくなってしまったことになるのでは?
つまりこれまでスーパーセーブを見せてきた守護霊がいなくなった久住さんを守るものはもう無い。
そして久住さんは結局あのあと2階に上がってしまっている。
ダメおしに久住さんのあの不穏なラストシーン。
こりゃもうダメかもしれんね。
まあ司と敬太を軸に物語を動かした結果ではあるが久住さん周りの謎の多さは本作の不気味さを強調する良いアシストになっていたなあと思う。
無関係なのに何故かやたら調べて事件に足を踏み込んでくる部外者という立ち位置がどこか大きな力で無理やり配置されたコマみたいでその存在自体に不安感を抱かせてくれてこの怪異の得体の知れなさがより深まっていて大変良かったなあと。
怪異を招くモノ
そして最後に、怪異に狙われる者について一つの仮説を。
まず第一に、誰かが捨てたいと願ったモノ、これは願ったものと願われたもの双方が山の中にある時点で確定キルが発生している。
しかし地元を離れ暮らす敬太、無関係の久住さんに対してなど本編内ではこのルールの範囲外で怪異による攻撃が度々行われてきた。
執拗に敬太を山に引き摺り込もうとしてきた怪異の様子からは上記の摩白山が持つ特性とはかけ離れた自我を感じてしまう。
山としての捨てるためのシステムとは別に、明確な意思を持って人間を取り込もうとしている側面がこの山にあることは明らかだろう。
例えば敬太と日向、登山部の大学生集団失踪など、これらは捨てるために摩白山に足を踏み入れたわけではないにも関わらず怪異によって取り込まれてしまったパターンであると思われる。
特に大学生集団失踪事件に関してはもしこの中の誰かがメンバーの内誰かを疎んじて「捨てたい」と願った結果怪異によって取り込まれてしまったのだとしてもそれならこの中の誰か一人でも生き残って良いはずである。
しかし実際には登山部は一人残さず消えてしまっている。
ルールなんか関係なくただ怪異に襲われた可能性が非常に高い。
敬太と日向も同様で元々日向を捨てるために山に行ったわけではない。
上記2件、そして本編終盤、見つからない廃墟が姿を現している時それらはいずれも「捨てるために」山に登っているわけではない。
「捨てる」ルールの外で行われている怪異の攻撃というなら久住さんもそう。
何故か山と無関係なはずなのに開始当初から山の怪異によって敬太と接触し山へ向かうようにその行動が誘導されている。
これら全てのケースを説明できるものではないが、一つ個人的に思いついた仮説がある。
摩白山で起きた事件とその関係者、もしくは摩白山自体、それらいずれかに惹きつけられ心囚われた人間のもとに怪異は引き寄せられる
というものだ。

まず敬太は日向が消えてしまったトラウマで山にその心を囚われ続けている。
日も暮れそうなのに急に山に登り出したりするそれはもう病的なまである。
敬太の家族も同様だ。
両親はいなくなった日向のことを引きづり続け、敬太との関係も悪化し家庭はほぼ崩壊していたと言って良いだろう。
家の中に山積している日向の捜索ポスター、警察の証言などから少なくとも母親は自殺する直前まで日向と摩白山にその心を囚われ続けていたものと思われる。
まるで描写がないため憶測にすぎないが、敬太の母は当然摩白山についても詳しく調べていただろうし自分で入山し捜索もしていたはず。
敬太の実家が結構なホラースポットになっていたことなどからもそれらの過程で敬太母は怪異によって狂わされてしまっていた可能性が高い。
それこそ山の影響でおかしくなってしまっていた敬太のように。
そして何故か無関係なのにめちゃくちゃ怪異に攻撃されていた久住さん。
彼女も本編開始時点から敬太と13年前の事件について調べていた。
敬太を一人のボランティアとして取材するため、その流れで行き着いた13年前の日向失踪事件。
彼女はこの事件に惹きつけられてしまった。
そして興味を持ち調べようとする久住さんのもとに怪異はその存在感を表し始めた。
登山部の学生たちももしかしたら摩白山で起きてきた過去の失踪事件だったり伝承について何かしらの興味を持っていたメンバーが中にいたかもしれない。
そして敬太と久住さんがそうだったように怪異による電話等を駆使した山への誘導がメンバー内の誰かに行われその誰かがまんまと登山部を丸ごと山に招待し全員取り込まれてしまった、なんて可能性もなくはないんじゃないだろうか。
そして久住さん並みに謎だらけの民宿の息子。
彼も最後には何故か怪異に取り込まれてしまう。
おばあちゃんの過去の行動とそれによって生じた母や自分の出自への不審。
彼はこれらについて考えないようにして生きてきた。
失踪する直前、彼は山の掲示板に貼られた日向の捜索ポスターをじっと見つめていた。
多分彼も司が山で失踪したニュースは耳に届いていることだろう。
つい先日自分のところに泊まってた客、自分が怖がって考えないようにしていた山について知りたがっていた客、そのツレが失踪した。
当然彼は山との関連性に行き着いてしまっただろう。
そして彼はふと山の麓で立ち止まってしまう程度にはその心を囚われてしまった。
考えないようにしていたのに知り合った人間が失踪したことで考えざるを得なくなった。
そうして心を囚われたことで彼は怪異を引き寄せ山に取り込まれることとなってしまったのではないだろうか?
ここで改めてまとめよう。
- この怪異は捨てることを願われたものを捨てる、という法則性に則った攻撃をとることがある。
- しかしその一方で意思を持ってルール関係なしの攻撃を取ることもある。
そのルール外の攻撃が行われる一つの条件として「山(とそこで起きた事件やいなくなった人)に心を囚われ続けてしまうこと」があるのでは?ということである。
怖い話をしていたり見たりしているととそこに霊が寄ってくる、だなんて話がある。
それと同じで山への畏れや好奇心が山の怪異を引き寄せてしまうのではないか?
いなくなった人間を探すため、そこで起きた事件を調査するため、動機はなんであれ畏れたり興味を惹かれたりと心を奪われてしまうという結果が怪異を招き寄せてしまう一因なのでは?
物語のラスト、久住さんは失踪事件と摩白山に依然執着し、日向失踪事件のビデオテープなんていわく付きのものまで所持し塚本に止められながらも失踪事件の記事を書こうとしている。
そんな彼女が最後何かの気配を感じ取り恐る恐る後ろに視線を向ける。
この山での出来事に心を囚われた久住さんのもとに怪異があり続けることを示唆しているのかもしれない。
この映画を見て考察を色々調べようとする人、こうしてくだらない考えを書き並べてる僕、ミッシング・チャイルド・ビデオテープという映像に、この中の出来事に心を囚われてしまっている全ての人間の背後に、もしかしたら最後の久住さんのように何かがいるかもしれない、なんてありがちな巻き込み型の考えを書いてみたり。
実際しばらく過敏になっちゃって部屋の物音とかあるはずもない気配とかを感じて勝手にビビったりしてたので、いやーな想像とかをする人にはよく刺さる映画だと思いましたこの映画。
なんか見た人の数だけその畏れが考察として出てきてるようですごく面白いし味が滲み出てくる映画だなと。
全然意味わからなかったとかまるで怖くなかった、なんて声も聞こえるけどそういう人は心を囚われないしそこに畏れも好奇心もないし当然怪異なんてやってくることもない。
でも僕のような変に考える人間には日常のあれこれが嫌な意味を持って襲いかかるようになる。
いや実に良いホラー映画だったし考察も活発になるタイプの楽しい映画で素晴らしかったなと改めて。
続編とか出たら司の姿をした怪異が敬太を誘おうとする怪異型BLになるんだろうな、いやそんな続編出るわけねえだろと思いつつ今回はこの辺で。