-人間が、人間ではなくなる。-
『28日後』、『28週後』に続く三作目。
28年後をやっと鑑賞。
まさか本当に作るとは。
28週後の続編が制作予定との報が入った時はなんやかんやお流れになるんだろうなと思っていたのに気づけば『Boots』をBGMにした不穏すぎる予告(最高の予告編なので見てない人類は絶対に見てほしい)を掲げて堂々たる帰還を果たしてみせたシリーズ最新作。
しかも三部作っていうんだからびっくり。
え?あの地獄をもう3回…?
28ヶ月後じゃなくてあえての28年後ということでこれだけの時間が経過しているとあの世界がどうなっているのかもう想像もできず、というかむしろ人類まだ存続してたんやとそのしぶとさに驚いたりとタイトルの段階でワクワクさせてくれる流石のダニー・ボイルら制作陣。
まあ製作期間が前作から開きすぎたからね。
だからこその前シリーズを基礎にした新しいシリーズ展開でもあるんだろうけど。
というわけで肝心の内容についてだけど…
まあ傑作でしたね。はい。
予告で感じた期待を裏切ることのない傑作。
人間から文明を剥ぎ取った時剥き出しになるその本質をエグいほどに描き出した前二作の色を全く損なわず、それでいてこれまでと違う切り口から描かれる新なる物語の新鮮さに約2時間虜にされ続けちゃいましたよ。
隔絶された島、壁の外への遠征、他国よりも後退した文化とそこかしこに「あっ進撃の巨人を感じる…!」な要素が散らばっているもののそれも途中まででどんどん作品に呑まれてそんなことを忘れてしまっていた。
あと感染パニックものというよりも前二作を経て地獄に変わったイギリスで展開される少年の成長ドラマモノという全く予想だにしていなかったシナリオにいい意味での驚きをもらえたなと。
ジュブナイルストーリーという挑戦的な方向に進みながらもそれでいて28日後らしさは健在という絶妙な塩梅に感心させられっぱなしだった。
しかもそのジュブナイルストーリーの質が異様に高いという。
正直あれ以上シリーズを継続するなら世界観の絵面を激変させるとか感染者をクリーチャーっぽくさせるとかそういう方向にい行くしかないよなとか思っていたのでもちろんその二つも取り入れられてはいるもののそこを主題にしていないところが本当に素晴らしかった。
というかもう気づいたら泣かされていたからね。
感染ものでこんな涙を流すことになるなんて思っていなかったので俺悔しいよ!
それもこれも主人公であるスパイクのおかげ。
彼がこの質の良いジュブナイルを成立させてくれた。
12歳の男の子ということで体調の悪いお母さんを心配して寄り添ったり別の女と致し始める父親にショックを覚えたりと感染者を巡る終末世界的なイベントよりも我々にとっても身近な共感性の高いイベントへのリアクションが大きくて思わず「頑張れ…頑張るんだ…」と子供を見守る保護者のような鑑賞体制。
感染者を倒しまくるぞとか世界を救うとかそういうのではなく、この少年が終末世界の日常の中で出会いと別れを重ね成長していくかなり完成度の高いジュブナイル映画だったなと。
とんだ地獄のジュブナイルではあるんだけど。
その辺がもしかしたら前作みたいな狂乱・崩壊を望んだ人たちにとっては退屈に思える要因にもなるかもしれない。
感染者も基本全裸で局部モロだしのチンテロ状態、舞台も街並みと言えるものは薄く28年という歳月によって自然に侵食された森林マップがほとんどと映像的にも前二作とは毛色がまるで違うものになっているため「荒廃した街並みを駆け巡る感染者からの逃亡劇!!」をそのまま2020年代の映像クオリティで見せてくれるものと考えている場合大きな肩透かしを喰らうんじゃないかなと。
個人的には焼き直しのようなものではなくシリーズの根っこにあるテーマはそのままに新しい素材で新しいものを見せてくれたことが純粋に嬉しかったし楽しかったしで良いことしかなかったわけであるが。
でもまあ少年の成長物語に舵を切るとは思ってなかったので普通にびっくりしたんだけど。
変質していく世界の真っ只中を歩いた前二作と違って感染拡大後に生まれた少年目線によるロードムービーになっているのでスパイクとしてはこの終末世界こそが日常でしかない、けど大人たちにとっては地獄へと変質した世界、この世代間にちらほらと見えるギャップのようなものも面白くて良かった。
大人や我々観客からすると感染は拡大して文明も崩壊して「終わった世界」(それでもここで生きていかなきゃならない諦観・絶望を抱えている)でしか無いんだけどスパイクにとってはこれが当たり前の日常で、ここで生きていかなきゃならない「続く世界」なんだよなって観ながらハッとさせられたりもして。
劇中でも描かれたようにこんな世界にも新しい生命は生まれるわけだし。
(それ大丈夫かよ!?と色んな意味で言いたくなる出産シーンだったけど)
家族間にある溝や愛情、父親との衝突、親離れと自立など普遍的なものを終末世界の中に上手い具合に落とし込むことで戦闘シーンはほどほどに終末世界を少年目線で冒険しながら少年の成長を見守る映画になっていて結構他ではなかなか見れないタイプの映画になっていたんじゃないかなと思う。
お父さん目線からこの世界を捉えると相当な地獄なので少年目線でホントに良かったなと思いますね。ええ。
頭がおかしくなっていく奥さんを介護しながら息子を鍛えつつ外の世界に遠征に行って感染者と戦ったりしないといけないとかしんどいよ。
数少ない描写で精神的に参ってしまっていることが理解できるのでお父さんが主人公で進行したら息苦しさMAXだっただろう。
なので視点を少年目線にしてくれたことは本当に良かった。
あと面白いなーと思ったのは世界観設定。
イギリスだけがレイジウイルスにより国家としての機能を失いそれ以外の国が普通に無事っぽいのがかなり意外だった。
前作ラストでイギリスの外に感染が広がり始めることを示唆するような締めかただったのでてっきり全世界ジャングルのようになって終わっちまったものかと…
というかフランスあの28週後の状態から巻き返したの熱すぎますよ。
イギリスはどうしてこんなことに…
大体ガバガバセキュリティとドンお父さんのせい。
スウェーデン兵のエリックとスパイクのやり取りで外の世界は普通に働いて暮らせる程度には平和な状況だし当時には普及していなかったスマホなんかもしっかり生まれるなど技術進歩もしているなどイギリスとそれ以外が全くの別世界であることをわからせてくるところが非常に面白かった。
大なり小なり各国危険な状況だろうと思っていたらイギリスだけかよ!!って。
まあでも迂闊に触れたら世界滅亡カウントダウン開始だし、感染者を殲滅したくても生存者がいる可能性を考えれば人道的に空爆なんかも行えないし(前作で結構空爆したはずなんだけどあれを生き延びてる奴らがいるので決行したところでまあお察しだけど)で「じゃああそこに触れるのはタブーで」って空気になるのはそうだよなって。
一度は世界滅亡が見えた瞬間もあっただろうし。
この人間社会の合理性というかドライさが見える設定に気持ちよくなっちゃった。
外では仕事終わり呑気に酒飲んだりゲームしたりしている奴らがいて、中では人の形をした生き物を殺すことを強要される少年がいる。
同じ空の下でこんなにも違うんだ、なんて思っちゃうけど、こうして呑気に文章を書いてる僕がいる同じ時刻何処かでは銃声や爆撃から逃れようと逃げている人もいるわけで、現実世界もこの映画と状況はそんなに変わらないのかもなって。
そんな当たり前のことをしみじみと考えさせられちゃったりとかしたり。
しかし本当に面白かった。
メッセージ性は強めでその全てを理解し受け止め切れてはいないと思うんだけど僕は一個のジュブナイル映画として楽しませてもらった。
狭い世界から抜け出し、父と衝突し、母を想い、そしてやがて自立し少年は大人になっていく。
これ一本だけでも完成度が高いジュブナイルなのにあと二作も見れちゃうとか楽しみすぎる。
しかも二作目にはキリアン・マーフィーがジム役として再登場する噂も立っているし一体どうなっちまうんだ。
(出てくる余地ない気がするのでもう1人の主人公っぽいジミー視点の回想にちょっと出てくるとかそんなんな気がする。とっくに殺されてたりしてたら泣くけど)
とりあえずめちゃくちゃいい映画だったんで、シリーズ一本も見たことがないよって人もこれ単品でも全然楽しめると思うしジュブナイルとしてかなりレベルの高い作品なのでぜひ見てほしい。
グロはシリーズで一番強いけど自然の営み感あってあまり気にならなかったのと普通に特殊メイクにすげえ…って感動できちゃうのでグロいのはちょっと…って人もいざ見てみたらあんまり気にならないんじゃないかな。
責任は取れないけどグロが売りです!って人体破壊しまくりな作品ではないのでそこは安心してほしい。
チェンソーマン見たことありますか?
田中脊髄剣で笑ったことがあるなら多分大丈夫。
とにかく傑作でした。
次はいずれ続編の感想の時にでも。

