-スターになるの-
『X』『Pearl』に続くトリロジー最終作『MaXXXine』。
時代は80年代、舞台をテキサスからロサンゼルスに、さらに主人公を『X』で殺人鬼を撃退し生き延びたマキシーンに再び設定。
彼女がハリウッドスターを目指す中それを邪魔するかのように追いかけてくるナイトストーカーとの対決が描かれた本作。
前二作と比較するとやや落ちる印象はあるもののそれでもちゃんと「面白かった」なと。
手放しで「最高!」と言えるようなものではなかったけどトリロジー完結作としては前2作を活かしつつ思ったより良いところに、それも「らしさ」を失わずに着地してくれたなというところが好印象だった。
なんか見終わった時は「あっ終わり?雰囲気はかなり良かったけどまあ可もなく不可もなくかな」だったのが時間が経過し過去作を絡めながら本作について考えてたら「あれ?結構良かったかもな…」と時間差でじわじわ加点されていった妙な感触で不思議な状態に陥ってしまった。
多分この映画のことが結構好きになってるんだと思う。
映像や作品内の質感に漂わせた80年代感の作り込みは流石のそれ。
ややMV風味になる場面なんかも当時の映画っぽさを感じられて笑ってしまったりも。
前二作よりもホラーというよりかはサスペンスの風味が強くて思わず「犯人は一体誰なんだ!?」みたいな無駄な推理を繰り広げながら見て最終的にズコーっとなれるところも面白みだと思う。
人によってはなんやねんお前かい!ってなるかもだけど、でもトリロジーの完結編としては確かに正しいラスボスのあり方で正しい決着のつき方だよなと個人的には腑に落ちるものだった。
Xではいずれ誰しもがたどり着く老いや人生に敗北したもしもの自分という恐怖を、そしてPearlでは要介護の父親と理解を示そうとしない凝り固まった母親、トドメに戦争という時代と環境による恐怖を見せてくれたわけで。
人の生き方を縛ったり縮こまらせようとしてくる抑圧との戦いこそがこのトリロジーの完結にはやはりふさわしい。
であるならまあ確かにこうじゃないとな!!さっきまでの考察は全部捨て捨て!!あー恥ずかしい!!と投げ捨てながら称賛絶賛顔真っ赤になりながらのラストバトル鑑賞で大変楽しかったです。
でも絶対いると思うんだよなー似たようなこと考えながら見てた人、考えてみたらどこかでみたことしかない手法だし今更やっても意外でもなんでもない凡策。
けどミスリード狙ってたと思うんだよこの映画も映画で、そう考えるでしょお前らwみたいな。
悔しいよ!!まんまとやられたって気分で!!
とまあそんなこんなあらゆる形でマキシーンの歩みを止めようとする抑圧とその戦いが描かれているわけなんだけどとにかくマキシーンが抵抗力MAXで大変良かったですね。
ビンタの一つかつばでも吐きかけるのかなという場面では鍵をウルヴァリンスタイルで握り締め殺すんじゃないかなという勢いで殴り出したり、命を脅かそうとする相手は逆に銃で脅したり潰したり、ここでじっとしてろ的なことを言われても無視して戦いに行ったり、とにかく相手の思惑通りにはいってやらねぇ!テメェがひれ伏せ!!みたいな行動を一貫していてそこがすごく良かったし本作で一番好きなところ。
そしてその姿勢こそが抑圧という恐怖を描き続けたこのトリロジーにあって燦然と輝いていたと思う。
気持ち良かったよとにかく。
終盤の障害を跳ね除けながらあの坂を登りナイトストーカーと対峙するくだりはまさしく抑圧を跳ね除けながらハリウッドという舞台で夢を掴もうとするマキシーンのあり方そのもののようでとにかく美しかった。
ナイトストーカーの正体これ?とか決着のつき方これ?みたいな不満は間違いなく多くの人に生じているだろうなと思いつつもこの終盤の流れにこそ僕は心を掴まれたのである。
あとはエリザベスという監督がすごく良かった。
マキシーンとはまた違う存在ではあるものの抑圧に抗う一つの女性像が彼女を通して描かれているようで。
本作の魅力を底上げした立役者の1人だろう。
他の登場人物の存在感を食ってしまうほどに魅力的だったのでキャラが良すぎたが故に結果良くなかったまであるかもしれない。
普通にこの人の映画作り映画見たいもんな…
とまあ結構褒めてきたわけだが、Pearlのような狂気成分は少ないしゴア描写に関しても三部作の中で一番大したことがないのでこの辺を期待している人にはかなり残念に感じられる一本かもしれないなと思う。
(ただし一カ所だけ三部作で最もみていて辛くなる男の痛覚を刺激する恐怖シーンがあるのも本作だが…)
さらに言えば独立した面白さを持っていた前二作と比較すると前二作ありきの面白さになっている作品だなとは思うので単独としての評価はやはり少し落ちるのが正直なところ。
トリロジー完結作としては美しいが、単独で評価するとちょっと渋めになるしここから入るという人がいたらちょっと落ち着こっかと止めたくなる作品。
でもなんかめちゃくちゃ好きよこれ。
という褒めてんのか貶してんのかわからん、そんな奇妙な気持ちにさせてくれる一本でした。
うーん好きですねこれは。
ちなみに好きなシーンはスーツケースから手作り感溢れるバラバラ死体が飛び出してくるところです。
では今回はこの辺で。
