6期ゲゲゲの鬼太郎最終回から約3年、発表から期間をだいぶ空けての公開となった今作。
なんか企画発表当初の空気感からは信じられないくらいの大バズりをしていて結構動揺していたりするこの映画。
その中に詰まっていたのは時間をかけて練り上げてきたのが伝わる作り込みと水木しげる作品への愛。
6期鬼太郎を見ていた人間だけではない。
これまで鬼太郎シリーズに無縁だった人まで巻き込み多くの新規ファンを呼び込む新風を巻き起こすバケモノが生まれてしまった。
重みのある生々しいキャラとストーリーの魅力は見たものを暗い場所へと引き摺り込んで離さない、そんな求心力を持った傑作ムービーはシリーズ初のことじゃないだろうか。
文句なしの傑作。
最高のラストピース
今作は6期鬼太郎の出生の秘密に迫る物語である。
6期鬼太郎は社会風刺描写が非常に多く、人間がより露悪的に描かれており鬱々とした気分になるようなエピソードが従来のシリーズより多かった。
日曜朝からなんて気分にさせやがる…
なんて思いつつもまあ楽しんでいたわけだが…
この映画を観たことでラストピースがはまったような気持ちになれた。
人間由来のトラブルが多いとはいえ人間に対して積極的にヒーロー性を発揮する場面が6期鬼太郎は少ない。
むしろ結構人間を見限ることが多い印象すらある。
しかしこのゲゲゲの謎で極端なまでの人間の醜悪さ、陰惨さを伴った鬼太郎出生の謎が明らかになったことで鬼太郎がああいう成長を遂げたことになんとなしの納得を得てしまった。
今作の結末から6期鬼太郎に至るまでは空白であるものの鬼太郎の成長の仕方や6期鬼太郎という作品の在り方を6期放送当時よりも飲み込みやすくなったと個人的には感じる。
そして何よりも今作の救いを欠片も感じさせないくらいに陰惨に映し出される人間という生き物の業、その醜悪さの傍で水木を通して描かれる人の善性と弱さという美しさに6期らしさを強く感じる。
一体誰が人間で誰がそうでなかったのだろうか。
見終わった後に心に重くのしかかるその物語は間違いなく人間や社会の残酷さ汚さ、そしてしまいには種族間戦争まで取り扱った6期鬼太郎へと繋がる前日譚たり得る味わい。
暗く重い物語が多めだった6期らしく、それでいて6期鬼太郎という作品を完成させる最高のラストピースだ。
昭和因習村
特徴的なのは舞台となった哭倉村とその支配者・龍賀一族だろう。
いわゆる因習村というやつだがまーこれがもうとにかく酷い。
村そのもの、そして一族一人一人からそれぞれの関係性に至るまで全てにイヤな想像が働いてしまい観ていて嫌悪感で腹の中が満たされる気色悪さは一級品。
直接的に作中で説明されていないもののさりげない描写や散りばめられた設定という点を線で繋げた時に見えてくる見たくもない何か。
この厭な因習村にまつわる設定から美術から細部に至るまで丁寧に練られておりその綺麗な完成度と見せるもの見せないモノの取捨選択の巧みさなど全編に渡り計算され尽くした美しすぎるほどに胸糞な村で製作陣に感服する他ない。
仮にもキッズ向けの時間帯に放送していた番組の映画でこれをやるか!?
やったんだよなあ
田舎の片隅の謎の村と一族、遺産相続争い、奇妙な因習、巻き起こる殺人事件と鬼太郎というより最早横溝正史作品オマージュをベースに組み立てられた物語はオマージュ元がオマージュ元なだけに一切の容赦が無い。
本当に容赦ない。
だからこそ良い。
村に関わる全ての者の罪を精算するかのような結末は悲惨で残酷ででもどこか美しく、すっきりとした清涼感が残る。
最悪の最悪の最後にどこかスカッとしたような、すっきりした気持ちになれてしまう。
それが良いのか悪いのかはともかく重苦しくも心地よいのだこれが。
ちなみに個人的には水木が村を初めて訪れて歩いている時の不穏なBGMやカメラワークが後押しする「異物が紛れ込んだ」感がたまらなく好き。
水木とゲゲ郎
何よりもこの2人だ。
誰もが知っているあの目玉のおやじの若かりし頃、通称ゲゲ郎は6期登場時のイケメンすぎる顔から一転今作では鬼太郎感の強い顔になって現れてくれた。
正直今作の方がしっくりくる。
そして6期でも語られた鬼太郎を育てた人間・水木。
何故目玉のおやじが生まれ、そして何故水木は鬼太郎を育てることになったのか。
墓場鬼太郎を見たことのある人なら大体なんとなく察していたそのルーツを6期鬼太郎独自の観点から紐解いた過去編であり既存ファンの意表も突くような物語になっていて見事。
目玉のおやじになる前の包帯グルグル巻きの姿は有名だが何故そうなってしまったのか、についてここまでドラマを組み立てたのは初めてでは無いだろうか。
個人的にはこんな切り口がまだ鬼太郎には残っていたんだなと感動してしまった。
自分たちを追いやり続けた人間を信用できないゲゲ郎と人間の醜さを目の当たりにし他人を信用できなくなっている水木。
何かがかけている2人が行動を共にする中で時には反目し、時には共感しお互いを少しずつ理解し種族を超えて歩み寄っていく過程が短い時間の中でテンポよく、それでいて濃厚に描かれている。
そう、バディものだ。
この映画はバディものなのである。
田舎の片隅で起こる凄惨な殺人事件と謎の因習をめぐり2人の異なる種族の凸凹コンビが立ち向かうバディもの…
こんなん面白いに決まってんじゃんな!
6期を履修済みの人にとっても鬼太郎とまなを重ねて見てしまうであろうどこか不思議な種族を超えた関係性。
間違いなくこの2人の関係性が今作最大のフックだと思う。
サンキュー!ゲゲゲの謎!
そしてこの2人のお陰か否か。
この映画を見るために若い女性層が多く来場するのを見かける。
男児や大人ではなく10代から20代の若い女性までもがたくさん見にくるという状況が鬼太郎シリーズでは珍しく作品が広い範囲に注目を受けていることを実感する。
もしかしたら3期から4期くらいのムーブメントを超えた何かが起きているのでは?と鬼太郎というコンテンツがこれに乗じて大きな動きを見せてくれないかななどと密かなる期待を寄せていたり。
年代ごとにシリーズを動かしてきた鬼太郎シリーズ。
10年代が6期なら次の新作は20年代、そしてこのゲゲゲの謎で鬼太郎の注目度が上がってる今7期鬼太郎の企画を動かそうという機運が高まっていてもおかしくはない。
鬼太郎の一ファンとしてシリーズに大きな燃料を注いでくれた今作にはもう感謝しかないのである。
なのでもっと長く走って欲しい。
円盤滅茶苦茶売れて欲しい。
妖怪図鑑たくさん発売してほしい←これが一番の本音