シリーズ屈指の恐怖と絶望 ゴジラ -1.0 感想

ゴジラ-1.0 特撮

あのシン・ゴジラから約7年、山崎貴監督の手によって再び国内でゴジラが蘇った。

選ばれた舞台はなんと初代ゴジラよりも前の時代、終戦直後。
最も日本が弱り果てている一番来てほしくないタイミングでゴジラが現れたら…という絶望に絶望をおっ被せに来るようなしんどさの二連撃設定の元、久しぶりに映画館に国産ゴジラが帰ってきた。

結論から言おう。
超良かった…

シン・ゴジラで目が肥えたような錯覚を覚えていた僕を踏み潰すくらい暴力的に魂に訴えかけてくるような、そんな作品だった。
なんでこんなに泣いてるのかわからないくらいずっと泣いてた。

それくらいに感情揺さぶられる作品だったし心をひっかかれ続けるようなそんな忘れられない一本になった。

災禍であったり時にはヒーローのような存在であったりとシリーズを経るごとに様々な顔を見せてきたゴジラ。
今作ではシン・ゴジラに続いて人類の脅威として嫌になるくらいの猛威を振るってくれた。

まるで戦禍そのもののように人類を追い詰め続ける今作のゴジラはもう勘弁してくれよ…と泣きたくなるくらいに恐ろしく、その存在感には核や戦争のメタファーであった初代ゴジラを想起せざるを得ない。
子供がこれを見たらギャン泣きだと思う。

ボロい小舟で逃げ場のない海上をゴジラに追われるシーンや大戸島でゴジラが一人一人視認しながら人間を殺傷していくシーン(この時のゴジラのサイズ感怖すぎる)などとにかく脳に焼き付くような恐ろしいシチュエーションが多くて歴代シリーズを見てきたこちらとしてもションベンちびりそうだった。

海のシーンは子供の頃海が嫌いになるきっかけになったジョーズを思い出すレベルで怖かったので今作を見た子供は海に近づいたら泣きわめくようになると思う。

ゴジラを恐く描く挑戦は今作に限った話ではないが今作は「もう…やめてやってくれぇ…」と心の中で懇願するレベルだったので恐怖という観点では初代ゴジラ、GMKに比肩するゴジラだったかもしれない。

ゴジラが出ない時間をどう埋めるか、それはゴジラ映画が抱える課題の一つであると思う。

今作では冒頭大戸島で登場して以降ゴジラの出番が中盤くらいまで全然無く、その間を使い敷島、典子、明子の疑似家族三人を中心とした人間ドラマを積み重ねるという選択を採った。

最初からゴジラが暴れその対応に約二時間奔走し続ける様子を描いたシン・ゴジラとは対照的に-1.0のゴジラはかなり出番を焦らしに焦らしたと言える。

ゴジラ=戦争へのトラウマを抱える敷島が典子、明子と出会い、寄り添う過程を描きつつ、同時に戦禍から復興しつつある人の心と街並みを映しこれが怪獣特撮映画であることを忘れる人も出そうなタイミングでやっとゴジラが現れる。
そしてここまでの間に積み重ねられた全てをゴジラが破壊していく。

心が傷だらけではあるもののこの生活を重ねていけば敷島にも救いが訪れたかもしれない、そんな淡い望みを鼻で笑うようにゴジラが踏みにじり焼き払っていく光景への絶望感は歴代屈指のそれ。

序盤から中盤にかけて戦争の傷を抱えながらもボロボロの心と体を引きずり立ち上がろうとする戦後の人々の描写を主人公敷島を中心に積み重ねていった甲斐あって伝わる喪失感・虚脱感がシリーズ随一のそれだったと個人的には思う。

くどいくらいに重ねた人間ドラマは喪失と絶望を塗り重ねていくための、そしてゴジラという戦禍に立ち向かう人々の美しさを輝かせるためのこれ以上ない働きを見せてくれた。

おかげで大分辛い気持ちにさせられることも多く、ゴジラ映画を観ているというよりも戦争映画を観ているような気持ちになった人は多いんじゃないだろうか。

敷島
監督は神木隆之介に何か恨みでもあるのかと言いたくなるくらいに追い込まれていく敷島のしんどさはシリーズ屈指のそれ

あと個人的には多くを描いていない橘さんの物語にグッと来た。
敷島に比べ多くを描いていない分色々想像がかき立てられて。

そして映像の迫力よ。
流石の白組とでもいうべきかCGのクオリティが異様に高く明るいシーンだろうとゴジラが浮くことなく違和感無し、物語への没入感を損なうことなく観客を戦禍に巻き込んでくれた。

また、人類の敵としてゴジラを描く以上、初代ゴジラは切り離せない存在なわけではあるがゴジラを眼前に死ぬ直前まで実況を続けるレポーターや、ゴジラと電車の組み合わせなどわかりやすくそれでいて現代技術でいい感じにアップデートされたオマージュシーンが豊富でシリーズを追ってきた人であればニヤリとする遊びとリスペクトも散見されて大変良かった。

(あと戦艦高雄や震電など戦後設定を活かすべく盛り込まれたVSゴジラのドリームマッチはそこまでミリタリーに詳しくない僕も興奮したのでその辺好きな人はこれらについてだけでも延々と語りつくせたりするんじゃないだろうか。)

冒頭の大戸島のシーン以外とにかく明るい時間にゴジラが大暴れしてくれるので戦後間もない日本が踏みつぶされ焼き尽くされとマイナスへと転がり落ちていく様子が克明に映し出されるせいでその絶望を一秒一秒噛みしめなくてはならない苦痛とド迫力映像をはっきりとこの目で見れるスゴイ!という興奮が混ざっておかしな精神状態だったような気がする。

あと最初の方でも言ったように泣いてた。
とにかく泣いてた。

個人的にではあるがシン・ゴジラはただそこにあるだけで破壊を広げる災害のような存在であったのに対し今作のゴジラは一人一人人間を視認した上で殺しに来る明確な意志を持った戦禍といった印象がある。
(そういう意味ではGMKのゴジラに通じるものがある気がする。)

絶望へのカウントダウンを行うように背びれが一つずつ隆起し熱線を放つ今作の熱線放射の演出はシン・ゴジラのように防衛本能から反射的に熱線を放射するとかではなく明確に全て壊してやるという意志の元で放たれているように感じてそこが恐ろしかった。

そして同時にあーくそ…カッコいいなあともなってたので本当に頭がバグってた気がする。

長々と垂れ流したが要約すると恐さと楽しさが両立した素晴らしいゴジラだったということである。

そこそこ年月が経過しているとはいえあのシン・ゴジラの後にゴジラを作るの観客の眼も変に厳しくて苦しいだろうななんて思っていたし、多分山崎監督らスタッフは実際の所相当苦労したと思うんだけれどもちゃんとシン・ゴジラと並べても見劣りすることの無い、別の角度からゴジラにアプローチかつそれを最高の映像で表現した名ゴジラ映画を世に放ったのでこれは本当に凄いことだなと。

続編を作れそうな結末と言えばそうなんだけどそこに触れると致命的なネタバレをすることになるので今回は控えるという事で。
ただ個人的にはあのオチは続編を作るためのあれそれではないと思っているということだけはお伝えしておこう。

これで完結するのが一番きれいだと思ってるので。

…ただ今作のゴジラのデザインがシン・ゴジラと比較するとかなり怪獣プロレス向きの体型をしていたので他の怪獣とゴリゴリ殴り合うところを見てみたいという欲は正直あるけど

まあなんだ、とにかく素晴らしいなんてもんじゃない映像体験が出来たのでまだ観てない人とか悩んでる人は絶対にスクリーンで観て飲み込まれてほしい。

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あんたい

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