毎年恒例の仮面ライダー夏映画。
今年はどんな内容なのかと思いきやまさかのデイブレイクの物語。
それはズルイよ見にいくしかないじゃん、ということで行ってきた。
テレビ本編で伏線は張っていたもののあまり詳細を語らないままだった未来世界の核心に迫った本作。
DAIGOさん演じる未来の宝太郎がどんな想いで過去の宝太郎を助け、どんな想いで戦い続けてきたのか、この映画では彼が背負う残酷すぎる現実を我々観客は現在の宝太郎の目を通して共に背負うこととなる。
夏の暑さで体力がすり減ったところに流し込まれるにはハードな一本だ。
だがしかし間違いなく面白かった!
個人的には令和ライダー単独映画の中ではゼロワンREAL TIMEが一番面白いと思っていて、全体評価としてそこを越えるまでには至っていないのだが瞬間最大火力だけでいえばゼロワン映画を遥かに凌駕する場面が多々あり、かなり心揺さぶられ記憶に焼き付いてくるような強烈な映画だった。
本編ガッチャードのオロチ事変から分岐し荒廃した未来世界を舞台にデイブレイクの物語が描かれたわけだが「もしもあの時デイブレイクが来なかったらどうなっていたのか?」の無情すぎるアンサーが明示される作品となっている。
容赦のないまでに大画面に流れるそれはまさしく仮面ライダー敗北ルート。
宝太郎を苦しめるために真綿を締めるように少しずつ殺されていく大切な仲間たち、地平線まで続く墓標、20年という月日の中絶望に蝕まれていく精神
あの明るい宝太郎の心が死んでいく過程がエグいくらいの濃度で描かれわけだが辛すぎて普通に泣いてしまった。
あの宝太郎から明るさが欠片も残らないほどにネチネチと20年間グリオンに追い詰められてきたという事実がキツすぎて。
グリオンの悪趣味ここに極まれり。
とまあそんな感じで濃すぎるくらいにデイブレイクこと未来の宝太郎について掘り下げた作品であり、本作は紛れもなく未来の宝太郎が主人公と言える一本だった。
だからかもしれないが案外ガッチャード本編を観ていない人でも独立した作品として楽しめるしこれを見ることでガッチャード本編への新規ファン流入も可能なのでは?なんて思わせてくれる作品でもあったり。
また、テレビ本編視聴済みの人にとっても異なる未来を辿ったキャラクターからその内面の深掘りが出来る作りにもなっていてなんかガッチャードってこういう細かいところへの気配り上手いよなと感心させられたりも。
多くのキャラが面白く動いてくれたがやはり未来の宝太郎がその中でも最高に輝いていただろう。
(やっぱり明るい男が曇っていくのって映えるんだよな…)
未来の宝太郎を演じるDAIGOさんもちゃんと宝太郎の心が限界点に到達していることを認識させてくれる迫真の演技でりんね役の松本麗世さんが泣き出すのも納得の迫力。
(素面の演技からアフレコまでヴァンガードやウルトラマンサーガの頃からの成長を大きく感じさせてくれてその辺も込みでDAIGOさんの未来宝太郎に変な感動がある)
演技が迫真すぎて「一体どうしちゃったんだよ宝太郎…」と本編とはまるで別人のような宝太郎の言動に経過した時間と彼が受けてきた数々の理不尽の重さを感じて動揺させられてしまった。
結構本編の明るい宝太郎のことを好きだった自分に気づく映画でもあったかも。
ウルトラマンサーガの時もそうだったけど心が曇った男を演じさせたらかなりハマるんだよなDAIGOさん…
(この映画が楽しかった人は絶対にウルトラマンサーガを見てくれ。絶対にだ)
未来宝太郎からも一般人からも滲み出る世界に対する絶望が嫌というほどに描写されるのだが、だからこそ過去からやってきた宝太郎とりんねが強く眩しく光り見えるようになっていて明と暗のコントラストが大変美しい。
絶対に未来を救うという希望を捨てない二人の言葉や奮闘が未来の宝太郎や一般人たちにじわじわと希望を与えその心に光を灯す流れは「真っ暗で絶望的な現実にあってヒーロー(仮面ライダー)の役割は?」という問いへの答えを映像作品として丁寧に解答してくれているようで見ていてかなり気持ちが良かった。
この映画を見ている現実の観客の心に何か火を灯してくれるようなドラマ作りだったと思う。
個人的には東日本大震災でこれから先どうなるのか先行きが見えない中見たレッツゴー仮面ライダーに近い感触。
どうしても未来宝太郎のことばかり語りそうになるが他のキャラももちろん良かった。
未来宝太郎の対比として並ぶことでその光の強さを示す現代宝太郎の眩しさには泣いたし、感情が乗りまくった松本さんのキレッキレ演技で可愛さとかっこよさがより引き出されりんねの名キャラっぷりを改めて確認できたりと未来宝太郎に食われることなく二人ともデイブレイクに並び立てるほどに骨太な活躍をしてくれたと思う。
特にりんねはメチャクチャヒロインしてたんだけどその一方で同じくらいヒーローもちゃんとやってて女性レギュラーキャラの仮面ライダーとして一つの完成型に到達したかもしれないとすら個人的に感じたりも。
そう感慨深くなるほどにりんねというキャラの魅力がこの映画には詰まっていたと思う。
またW宝太郎とりんね以外のキャラも気持ちいいくらいにシナリオの上で面白く動き回っていて、その上でほとんど誰かが割りを食うことなく全員ちゃんと見せ場が用意されているのは素晴らしい采配だったんじゃないかなと。
強すぎるくらいなはずのカグヤ様がちゃんと絶体絶命になるくだりや熊本陸斗さんの怪演によって子供達の心に大きなトラウマを残したであろうトラウマシーンなどスポットごとにキャラを語ればキリがなく名シーンの詰め合わせのような映画だった。
客演した新ライダーのガヴもディケイドに連れてこられたという裏設定の下での登場だったところにガッチャードらしい丁寧さを感じる。
(ディケイドへの好感度も上げつつそこはかとなく仮面ライダーガヴという作品への不穏さを匂わせるところも良き)
そんな中でも個人的には加治木が傷ついた未来宝太郎を支えて「宝太郎!!」と声をかけるところが好き。
些細な場面ではあるけれどその思考や佇まいが別人のようであってもちゃんと友達として変わらず接してくれる、そういう戦闘とは関係のないところに出る加治木らしいかっこよさが見れて嬉しかったしキャラの掘り下げが丁寧なガッチャードらしい場面で好きだった。
とにかく未来宝太郎を虐めに虐めぬいている映画だがその甲斐あって抽出された絶望と希望のブレンドエキスは極上の逸品。
ちょっと、いやだいぶ急いだな!?と思っちゃう場面もいくつか見受けられたしやや強引では?と感じるところもなくはなかったがそれも一興。
(未来に行く方法が見つかるくだり、勢いよすぎて笑った)
そういうのを「まあいいか!」と流させるくらい良い箇所が非常に多いシナリオと演出で、加点式でとんでもない点数を叩き出すタイプの仮面ライダー作品に仕上がっているんじゃないかなと個人的には思う。
何より見終わった後の爽快感が素晴らしい。
あれだけの絶望をこちらに与えておきながら見終わった後はなんか一夏の冒険モノ作品を見た後くらい爽やかな気持ちにさせてくるのだ。
ガッチャード本編と連動することでテレビ本編内の謎への答えも示しながらそれでいて未来宝太郎を主人公とした一本の独立した映画としてもちゃんと楽しめるようになっているのは結構すごいことをやっている気がする。
ガッチャードはちょっと子供っぽすぎて…みたいな声を序盤はよく聞いたしそれで脱落した人もいるかもしれないがそういう人にこそこの映画を観てガッチャード超凝縮濃厚エキスを味わって欲しい。
まあでも独立した作品として楽しめるとは書いたけどやっぱり本編あってこそ十二分に楽しめるシナリオなのでどちらが先にせよ本編は絶対見てほしいんだけど。
ドラゴンボールで例えるとガッチャード本編がセル編なら本作は未来トランクス編だから。
伝われ。
最後に。
未来宝太郎とデイブレイクの真骨彫今すぐに出してくれ。