そこにずっとある恐怖 ミッシング・チャイルド・ビデオテープ (2025) 感想

見つからない廃墟 映画

-かくれんぼしよう。-

13年前かくれんぼの最中に行方不明になってしまった弟・日向、その行方不明になる瞬間を収めたビデオテープが兄・敬太の元へと届く。
これをきっかけに同居人の司、記者の久住、敬太の3人は敬太の過去とそれに纏わりつく何かと対峙することになるが…

とまあそんなあらすじのホラー映画。
予告の時点でだいぶ怖そう&面白そうだったので鑑賞。

これのなんとまあ良質ホラーなことか!

派手な演出も無くただ淡々と進んでいく物語に退屈さを覚える人も多くいるだろうけど刺さる人にはとにかくブッ刺さるじんわりと怖い質の高いホラー体験をさせていただけました。
僕にとっては超楽しすぎる映画でしたわ

(ジャンプスケアが無いと謳っていたけど「いやこれはジャンプスケアに該当するやろがい!」と思い切りびびらされた場面が2箇所ほどあるのでこの謳い文句には疑念がやや残るが)

見えない何かが開幕からずっと画面のどこかにいて、それが物語の進行とともに観客に与える恐怖を増幅させながら徐々に輪郭をくっきりとさせていく怖さ

「見えないけど、ずっと何かがいる」

じわじわと周囲を包囲され逃げ道を失い最終的には取り返しのつかない道を歩かされてしまっているようなそんな感覚に陥り鑑賞後にもその寒気すら覚える恐怖は抜けることはない
いやむしろ見終わって冷静に作品を振り返ることでさらに恐怖が増していくというちゃんと細かい部分にまで設計が行き届いた真っ向勝負ホラー映画で好印象しかない

とにかく何気ない音や小物を使って「ああ…なんか…厭だな…」と思わせるような恐怖を演出する技術が凄まじかった。



わっと瞬間的にびっくりさせるのではなく違和感を蓄積させじわじわとこちらの心を蝕んでくるいやらしいやり口は開幕から炸裂。

敬太に保護された少年の意味深な目線、母親から送られた大量の段ボールが押し込められた押し入れ、自分の背後を強張りながら無言で見つめる少女、やけに強く聞こえる子供の遊ぶ声、ビデオテープのざらっとした映像と音、4人家族なのに3人しか写っていない家族写真、なぜか2階へと上がろうとしない司、不意に落ちるボール、足音、鈴の音、防犯ブザーetc…

怪異を直接映すのではなく日常にあるものを使いこちらに厭な感触を与え続ける
そしてそれは鑑賞後、現実に戻った我々に長く影響を与えるだろう、最悪である

たまに現実に自分達も体験することがあるだろう視界の隅で捉える何かが動いたような感覚、何かがいる気配、見られてるような視線など錯覚に過ぎないはずのそれらに意味をもたらし画面の外にまで恐怖を侵食させる最悪のやり口はまさしくJホラーの遺伝子そのもの

久しぶりに見終わった後ずーっと厭な恐怖に包まれていたよ。
それこそこれを書いている今もだ。

いくつも怖いポイントはあったけど個人的に一番ゾワっときたのは中盤立ち寄った民宿で聞かされる山にまつわる語り

民宿の息子の話したくない話を語らされている落ち着きのない少し走り気味な語り口がさらに恐怖を助長していてもう怪談の語り手として優秀すぎた。
今対峙しようとしているものがとんでもなくやばい案件だってことをこちらに容赦なく突きつけてきて。

「ツレと一緒に帰った方がいい」的なことを言われていたけどいや本当そう!!帰ろう!!って心の底から思ったけど見終わった今なら言える。
あそこで帰ったところで多分状況は好転しなかったんだろうなって…

元々怪しくはあったもののギリギリなんとか形を保っていた日常の境界が怪異のある領域と混じり合い溶け始めていくあの見えない何かに囚われていくような感覚は得難い恐怖体験でした

というか平穏と思っていた日常はとっくに狂っていたということに気付かされたようなそんな感じかな。
敵の影響力が強過ぎてどうしたらええねんこんなん!!って投げ出したくなるよ普通。

そんな白旗あげてとんずらしたくなるのが普通の状況下において燦然と輝き続けた男がいる。
敬太の同居人である司だ

彼がもうとにかく素晴らしいキャラクターでこの人こそ本作最大のフックと言ってもいいんじゃないかというくらいに魅力的だった

はっきりと言及はないもののまあ多分敬太と恋人関係で同棲までしている司。
イケメン塾講師さらには霊を見ることができる特異体質の持ち主そして敬太の恋人とまあまあ属性乗っかってる人物ではあるが彼の一挙手一投足が意味ありげかつ画面映えしてとにかく目が離せない。

怪異を感じ取ることができてしまうので何気なく手にしたビデオテープへの怯え方や敬太の実家の2階にいくことを案に拒否したりなど観ている人間に「あ、やばいんだ」と伝えてくれる優秀なメッセンジャーを果たしてくれる。

そしてそれを敬太にあまり悟らせないようになるべく自分の中で抱えて普通そうに振る舞っている健気さも垣間見えて映画を動かす装置としてだけでなく司という敬太のパートナーとしてのキャラクター性も時間経過とともに強化されていくので本当に素晴らしかった

やばいと直感的に理解しているからこそ見たくなんかないだろうに敬太のために一緒にビデオを見てそれとなく「燃やすか捨てるかした方がいい」とアドバイス(それを自分では強行しない。なぜなら敬太の所持品だし母親から送られてきたものだから敬太自身にその判断を委ねている。パートナーとしての自覚がありすぎる)したり、取材に来た記者を敬太に害を与える存在かもしれないと警戒しガードするし敬太が急に実家に行くと言い出せば記者との約束を反故にしてまで敬太に同行し記者からの電話はガン無視のおまけつき、敬太の実家で確実に何かを感じ取っているもののそれをなるべく敬太の前では出さないようにして敬太の話の聞き役に徹し、急に敬太が山に行くと言い出せばそれにちゃんとついていくし出揃った情報から考察すればどう考えたってやばい場所なのに敬太のために迷わずに向かおうとする。
それも霊が見えるだけで対処ができるわけじゃないから怖くてたまらないのに
怖くて震えているのに敬太のためにですよ!

と、なんの言及もされていなくても行動の積み重ねで司が敬太のことを真剣に想い心配していることがよく伝わってくる。
伝わりすぎるまである。

ただの仲の良い友達相手にしては親身すぎるよアクションの一つ一つが…
作中ずっと敬太のためだけに行動しているんだもの。
純愛です。これにはかの特級術師もニッコリ。

そして司の描写の積み重ねの先に判明する一つの事実がさらに司の愛を実感させるのだけれど、だからこそわりかし悲しい気持ちにさせてくる終盤の展開に考察が捗る捗る。

事件の中心にいるのは敬太だけど物語の実質の主人公は司と言って良いくらいに司視点の場面や描写が多く、だからこそ感情移入をして見れたし愛着もすごく湧いた。

敬太と司の出会いや馴れ初めを描いた短編作品なんかも見たくなるくらいに司→敬太の純愛が良かったよ

良質なホラーと前述したけど何気にそれと同時に良質なBL作品といっても良いのかもしれない
僕個人は正直BL作品はさっぱり見ないし別に好きとか嫌いとかを語れる領域にはいないんだけど本作のそれはかなり見応えがあってかなり良いなと思ったので愛好家の皆さんの意見を是非聞いてみたい。

とにかく司周りが良かったのだが敬太と二人に近づく記者・久住さんの二人も面白い立ち回りだった。
敬太は何を考えているのかが読み取りづらい表情をしていることが多く衝動的な行動をとってしまうところも本当に本人の意思なのか見えない何かに動かされているのか判断が難しいところがすごく不穏で怖かった
司と対照的な敬太の内面の「わからなさ」がラストの意味を覆い隠す一つの装置として機能しているのかもなーなんて感じたり

ただ両親に構われる弟への子供らしい嫉妬を成長とともに昇華することができないまま目の前で弟が消えてしまい、それに伴って家族が壊れていってしまうという度し難い経験だったり自分より弟を求めているかのような両親の行動の数々を思えば敬太がああなってしまうのも無理はないなと同情したくもなる。

怪異を抜きにして家族に見てもらえない・わかってもらえない一人の子供の苦しさが描かれているようで敬太周りは怖いだけじゃなくて悲しい気持ちにさせられることが多かった

父が家族の役割を演じているようだったと敬太が感じるくらい普遍的な家族のあり方を父が望んでいたのなら多分敬太の同性愛についても理解を得られているわけはないので本編で描かれた、匂わされた以上の精神的苦悩が敬太にはあったんじゃないかなと

じゃあそんな敬太に司は何を与えその心の穴を埋めたのか、なんていうふうに色々考察が捗るのである。

そして久住さん。
久住さんに関してはこの人周りの描写怖すぎるんですよ
はっきりと見えるわけではないものの何かに取り憑かれていて四六時中防犯ブザーを身につけている(そんなんもう絶対やばい状況でビービーなりだすじゃん!やめてくれよ!)という開幕呪いデバフ状態で登場するのでそれはもうホラー的に怖すぎるし絶対パーティーメンバーに入れたくない

電話番号を知らないはずの敬太のお父さんから電話があったことを話して「敬太の父は死んでますけど」と返される軽めのジャブで応酬するかのような司とのさらっとしたホラートーク、司との電話に介入してくる怪異、久住さんの車の周りを蠢く謎の気配と本人が全然見えていないのにめちゃくちゃ怪異からの好感度が高いせいで久住さん周りの描写がちゃんとホラー映画し過ぎていて困った

わからないことだらけすぎて一番考察の余地が残されているのが多分この久住さんなんだよな…
わかんねえよ久住さん。あんた何に取り憑かれてたんだ…?敬太の父なのか?それとも違うのか?
わからねえよ、こええよ…

と、かなり面白く楽しかったですミッシング・チャイルド・ビデオテープ

見せ過ぎず説明し過ぎず、その上で見た人間を確実に怖がらせようという超真面目に作られたホラー映画

それも個人的にはかなり怖い部類であるもののそれと同時にホラー苦手な人にも見やすいという矛盾を成立させている特異な映画かもなと個人的には思っていたりも

比較的ビクッとさせられる場面は少なく(無いとは言わない)、直接的な描写もかなり少なく「ん?」とさせる程度のものが多く(無いとは言わない)ただゾワゾワと背筋を寒気が走るような、怖い怪談を聞いているときのような恐怖に満たされるホラーとしてはかなり上品な作りの映画で一個の作品として美しくすらあると思うし司という見目の良い登場人物の存在もあって彼の行動に目を惹きつけられるので典型的なホラー映画を見ている時とはまた違う鑑賞体験ができる作品だなというのが個人的な感触である。
なのでホラー苦手な人にも是非本作は見てほしいなと思う

そしてこの作品の中で起きた出来事を目撃し、敬太がそうだったように心を引っ張られてほしい
そして部屋の隅にある影や何か物が落ちたり足音が聞こえた時に恐怖しやすくなってほしい
強くそう願います。

こっち来い!!

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