ろくでもない奇跡ってあるよね NOPE / ノープ(2022)感想

NOPE 映画

「最悪の奇跡が起こる

ふと空を見上げれば青い雲に白い空、なんてことのない日常の一部
頭上に広がるその日常に潜む恐ろしい「何か」
その存在に気付いた時主人公たちが直面することになる恐怖
彼らは決断した

「こいつの動画撮って売りつけて一攫千金だ!!」

この使命感もクソもない欲に塗れた目的を掲げ彼らは駆け抜ける。
トラウマや欲求、家族、金銭問題
誰もが抱える生々しい問題を荒唐無稽な超常現象と交えながら人間を描くSFホラー

これがめちゃくちゃ面白い。

UFO被害、いわゆるキャトルミューティレーションという盛り上げるには難易度の高い題材でありながら劇中に人種差別の暗喩など数多くのメタファーを仕込み映画としてのメッセージ性を高めつつ、それを抜きにしてもちゃんと面白いエンタメとして仕上がっておりかなり完成度の高い映画。

ネタバレ多めに色々語っていこうと思う。

立ち向かう物語

僕はこの映画を立ち向かう物語だと思っている。

Gジャン(UFO)の正体が「宇宙船」ではなく「生物」であると主人公のOJによって解析されるにつれ物語に漂っていた怯えのような、どこか若干逃げ腰だった空気感が「立ち向かう」方へと向かっていく。
これがとても痛快なのだ。

降り注ぐコインと鍵、父親の不可解な死、明滅する電気、闇に蠢く何か
何が起きているかよくわからない暗い画面


序盤「恐怖」を与えるために描かれた不穏な描写の全てはそれを見てはいけない恐ろしいもののように配置されている。
だがその実態を理解したOJはそれまで恐怖に怯えていたのが嘘かのように脅威に立ち向かうことを決断する。

そのOJの内面を表現するかのように暗い場面が多かった序盤から一転、終盤は晴れ渡る青空の下での決戦になるのだ。

恐れることなく馬を駆り恐怖に立ち向かうOJの姿には緊迫感を超えた爽やかささえあった。

物語は全体を通して人種差別を暗喩するような描写がふんだんに盛り込まれている。
OJ(黒人)がGジャン(力を持つ存在)と目を合わせずそこに居ない者のように振る舞い難を逃れるシーンなんかが特にわかりやすい例だろう。(他にも数多く、細かい描写があるがここでは割愛)
息の詰まるような黒人差別の暗喩だ。

Gジャンを黒人に向けられた抑圧的な力、あるいは支配と捉えるならばそれに敢然と立ち向かうOJの姿はまさしく生きるために立ち向かう黒人の姿そのものといえるだろう。
そしてそこに恐怖は無い。
それがとても爽やかな気持ちにさせ勇気さえ与えてくれるのだ。

改めて言おう。
この映画は僕にとって「恐怖に立ち向かう物語」だ。
恐怖から目を背けず、ちゃんと理解し闘う、そういう勇気を貰える映画なのだ。

中盤までの怖い、わからないという感情をここに行きつかせるこの映画、とんでもない。
この味の変化はこの映画の特色になっているだろう。

ジュープ

ジュープ(NOPE)
ジュープが空を見上げた時何を思ったのか、どんな感情が脳を駆け巡っていたのか、考えずにはいられない

そして個人的今作一番のフックはこの男、ジュープ
本作のキャッチコピーでもある「最悪の奇跡」を最も体現しているのはこの男じゃないかとも思う。

こんなんトラウマになるわ!と言いたくなるようなチンパンジーのゴーディ暴走事件を契機にハリウッドから去り忘れられた元アジア系子役。
共演者が次々とチンパンジーに血祭りにあげられる中無傷で奇跡の生還を果たしたことでトラウマと成功体験を同時に得てしまったわけだが…

そもそもジュープがゴーディ事件から生還できたのはテーブルの下に隠れていたことによってテーブルクロスがゴーディとジュープの視線を遮り目を合わせずに済んだからに過ぎないのだが、ジュープはこの瞬間のことをさながら『E.T.』のようにチンパンジーと心を通わせることができたと錯覚してしまう。

この成功体験が彼に「生物とはわかりあえる」「支配できる」という錯覚を与えGジャンをショーの見世物にするというとんでもプランを実行させるに至ったと考えられる。

結果的にGジャンをどうこうすることなんてできずに家族や招待した共演者(一番可哀想なのはこの人だと思う)、観客、自身を含む多くの人間を巻き込む凄惨な結末を迎えることになってしまう。
彼がゴーディ事件の時に奇跡的な体験をしていなければ違う未来もあったかもしれないと考えると…最悪の奇跡を体現しているのはまさしくこのジュープじゃないだろうか。

今作のテーマともなっている「見る者と見られる者」「見られる者」(アジア人系子役)として搾取され続けたジュープがGジャンを見世物のように扱いスターに返り咲こうとした結果ゴーディ事件を遥かに凌ぐ大惨劇を引き起こし凄惨な末路を迎えたことは結構皮肉が効いていて個人的には好みの最期。

最期の瞬間自分を呑み込もうとするGジャンを見上げるジュープの表情が絶妙で、一体どんな感情が巡っていたのだろうと彼の人生について思わず考えさせられる。

物語的には結構なやらかしポジションのキャラクターではあるもののゴーディ事件に苦しみ囚われ続けてきたその人生を思うとどうしてもキライになることができない。
見終わった後延々と心にひっかかりを残すなんとも魅力的なキャラクターを造詣してくれたものだと感嘆する。

個人的にはこの映画を忘れられなくしてくれた一番の存在。

ホルスト

ホルスト(NOPE)
自分の世界をちゃんと持ちそこで生きているのでたまに周りを置いていく発言を残し周囲を無言にさせる。本人が楽しそうなのでヨシ!

ジュープに次いで何気に忘れられない男
地獄のカメラマンホルスト

ホラー色強めの空気感が反撃ムードに転じたタイミングでの参戦ということもありこの映画のドライブ感の象徴のようなキャラ。

人生に諦観的というか、どこか空虚さを感じさせるその瞳にひたすら生物の捕食映像を流し込み続けるヤバい男だが合流してからの心強さが本当に尋常ではない。
多分頭のネジ一本どころか全部ない

長く住み続けたOJが監視カメラを導入してやっと気づいた「動いていない雲」の存在を一発で看破する有能ムーブ(その後出てきたモブカメラマンも一発で気づいてる辺りこの世界のカメラマンなら辿り着ける境地なのかもしれない)を披露したりGジャンの姿を見てもさっぱり動揺せずただひたすら良い画を撮ることだけに執着する徹底した職人っぷりに思わず笑みが零れてしまいそうになる。

物語がまあそこそこの盛り上がりを見せてこのままなあなあな感じで終わりかな?と観客が感じ取るタイミングで「ここで終わるのつまらないだろ?」と言わんばかりの大かき回しで大混乱を引き起こし映画を最大のクライマックスに持ち込んだのもこの男。

今作の駆け抜けるような爽やかなラストのためのアクセルを踏んでくれたのはこの男であり、映像屋らしく映画の盛り上がりのために最高の働きを見せてくれたそのキャラクター性は「不可能を撮る」という言葉にふさわしい大立ち回りだった。
一つのことを突き詰め続けた男が絶頂に辿り着く瞬間を見れたようで気持ちがいいのよねこの人の活躍。

カメラマン道を極めた者が辿り着くのはその身の全てを映像の為に捧げるような渇望と献身を見せたこのホルストの境地なのかもしれない。
カメラマン怖いっす

蘇るトラウマ

最後に関係ないどうでもいい話を。

NOPEを観ていてどうしても頭に浮かんでくるうっとおしいやつがいたんだ。
アイツだ。

シルバーブルーメだ。

YES、みんなのトラウマ、シルバーブルーメ。
知らない人はウルトラマンレオを軽率に観て欲しい。

もちろん僕も例によって幼少期にこいつにトラウマを大いに植え付けられていた。
「シルバーブルーメっぽさ」に敏感な脳になってしまっているのだ。

円盤生物、生きたまま飲み込まれ消化される人間、触手を広げた時のクラゲのようなフォルム
幼少期に刻まれたシルバーブルーメのトラウマを呼び起こすには十分すぎた

最初の方にNOPEを「立ち向かう物語」などと表現したが奇しくも僕自身がトラウマに立ち向かうハメになってしまったワケだ。

冗談じゃねえ。
シルバーブルーメみたいにGジャンが手のひらサイズになって部屋の中に来るなんて描写があったら逃げ出していたかもしれない。

ヒーローなんていない中対処法を人間の知恵で編み出し人間の力でのみ闘うラストバトルは正直ウルトラシリーズと重ねてしまって妙に熱い気持ちになっていたがこれは多分制作がまるで意図していない僕の心のバグ。

まあトラウマを刺激されたおかげで強烈に焼き付く作品になりましたよNOPE
結果オーライ!!
(シルバーブルーメを抜きにしても十分トラウマレベルに強烈な映画だったけど…)

ではこのへんで

…シルバーブルーメ連想しちゃった人他にもいると思うんだよなあ



映画
あんたいをフォローする
あんたい

アニメ、漫画など創作物が好きです。
好きなものや観たものなどについての感情や感想を記録していく場にしたいと思ってます。
たい焼きはあんこ派。
あんまんはつぶあん派です。

あんたいをフォローする
タイトルとURLをコピーしました