夢じゃありませんホントに劇場版です 機動戦士ガンダムSEED FREEDOM 感想

キラ・ヤマト 映画

劇場版制作発表から18年。
平成はとっくに終わり令和真っ只中。
「新世紀最初のガンダム」の触れ込みもどこか遠い響きとなり初々しかったあのSEEDもいつしか数多く存在する昔やってたガンダムの中の一つになってしまった。

もう全然続報もないまま他のガンダム作品が生まれては完結し生まれては完結しと繰り返す中、ほとんどの人間が「劇場版SEED中止になったんだろうなあ」なんて思っていた(はず)。

ところがまさかのポシャったと思わせての公開決定。
本当に作ってたんだ…!と大きなどよめきを界隈に生んだ。

それでもまだどこかで信じられない自分がいた。
気持ちはもうHUNTER×HUNTERの連載再開情報がトレンドに上がり旧Twitter(現X)を賑わせた時の「信じない!!この目で確かめるまで!!」の感情。

だからこそちゃんと予告が来た時震えた。

あの続きを見る日が来たのだと。

それは喜びだけではない。
DESTINYを見終わった時の憎しみと再び向き合う日が来たのだという恐怖だ。

スパロボで幾度となくシミュレーションは済ませてきたが本番となるともう話はまるで違う。

もう戦いである。
鑑賞なんて楽しいもんじゃあない。
僕は映画館に決戦に赴いたのである。

まず結論から言おうか

いや最高に楽しかったですわ…

DESTINYからFREEDOMへ

妙な感動があった。
確かに面白かったし熱くなれた、けど普通の映画に感じるそれとはまた何かが違う。
それはきっと18年という歳月の蓄積がもたらしたものだ。

正直なところSEEDの映画はもう諦めていた気持ちの方が大きかったし内容そのものにもそこまで大きな期待を寄せていたわけでもなかった。
脚本家が亡くなられたこともそうだし経過した長すぎる期間やら大人の事情やらいろんなものが絡み合って当時監督たちが劇場版でやりたかったことやろうとしていたことを果たして今思った通りの形で出力できるのか疑問だったからである。

結果から言えばそんな杞憂をしていたことが恥ずかしくなるくらいに楽しくて面白い映画だった。

劇場版らしいオールスターお祭りバトル、派手なモビルスーツ戦と艦隊戦、映画ならこれは当然ないとね!なノルマを想定以上の密度とクオリティで流し込まれて僕の胃袋は満腹ご満悦だったわけだが個人的には真面目にDESTINY最終回からの流れを汲む物語をやってくれたこと、そしてキラとラクスをちゃんと応援したくなる物語になっていたことが嬉しかった。

正直そこまでデスティニープラン関連には深く触れずに考察すれば背景にDESTINYの遺伝子を感じるくらいの程よい仕上がりだろうなと思っていただけにデュランダルとの問答を引きずるキラの姿やデスティニープランを否定したキラとラクスがそれぞれの役割に縛られている皮肉めいた描写などDESTINY最終回の先にあるキャラクターたちのその後の姿をすごーく真面目に描きつつ丁寧にSEED DESTINYの続編としての劇場版をやってくれていた。

デュランダルの口が巧かったから、あるいはキラが嫌いだからそのキラを否定するためだけに、という理由・動機などからデスティニープランを支持する視聴者が一部存在していた事実を考えると、改めて観客に対して真っ向からデスティニープランを否定するための、かつてキラ達が選んだ選択は間違いなんかじゃなかったと証明するようなその物語のあり方がとても真摯に感じた。

そして何よりもDESTINY以上に「デスティニープランの否定」という行動に納得がいく作りになっていて、結果的に批判されがちだったSEEED DESTINYがこのSEED FREEDOMを構築する上で絶対不可欠な大事なピースへと昇華したようでもうとにかく素晴らしかった。

目が死んでるキラ
残業帰り夜中にDPを見ながら寝落ちしたり休暇の楽しいピクニック中もなんか目が死んでたり大変心配になる本作の准将。

あの時ああだったら、こうだったら…
色んな複雑な感情をDESTINYに抱えた人が多かっただろうが恐らく見た人間の大半の心を浄化しフラットな状態でSEEDに再び向き合わせてくれる、そんな映画だったと思う。

こんな日が来るとは全然思っていなかった。
そういう意味で僕はとてつもない感動を覚えたのだ。

そしてチート能力を持った新たなる敵アコード、ラクスを狙う間男みたいなムーブを見せるオルフェなどの登場によってキラとラクスを応援したくなるような物語になっていたのも良かった。
キラ達を散々舐め腐ったような態度をとるファウンデーションの面々の様子もキラ達が敵の掌の上でいいように転がされかつてないほどに追い詰められる展開もとにかく鬱憤が溜まるそれこそストレスフルなものだったはずなのにそのストレスがとても心地良く感じるという矛盾に浸ることができた。

「キラを舐めるなよ!!」みたいなDESTINYを見ていた時にはまるであり得なかったキラ寄りの感情も芽生えたりして自分の中にまだキラに対してこんな気持ちや期待を抱いていたのかという驚きもあって不思議な心地よさがあった。
それこそSEED無印以来の「キラの行く末をハラハラしながら見守れる作品」だったと言えるのかもしれない。

そして何よりもSEEDはまだまだやれる!!ということを世界に知らしめた一本だった。
ガンダムを語る上で外せない傑作の一つになったと思う。

キャラクター

一人一人のキャラクター描写もとても良かった。

既存キャラはちゃんとその背景にデスティニープランをめぐる戦いを超えてきたことを感じさせる感情の動きを感じられたし、アグネスを初めとする新キャラ達も既存のキャラに負けない存在感を放ちそのバックボーンをもっと掘り下げて欲しくなるくらい魅力的に輝いていた。

個人的にはストレスを料理にぶつけるラクスやルナマリアとの仲をなかなか進展させられず体育座りでへこたれるシンなど前作までは見せなかったキャラの新しい一面を確認できたのも楽しかった。

既存、新規関わらず気持ち良く楽しめるキャラクター描写を見ることが出来たが、中でも特にキラの描かれ方は一際丁寧で素晴らしかった。

DESTINY時代のキラはどこか悟っているような、無印の時よりも感情を極力表に出さないようにしているような、個人的にはどうも距離を感じる存在だったのだが今作では物語の焦点がキラとラクスの関係に絞られていたこともあってかDESTINYの頃よりもずっとキラの感情が見えやすくなっていたのが個人的にはかなり良かった。

とことんまで精神的に追い込まれたこともあってその感情が爆発、長いこと言葉にしてこなかった想いの数々をちゃんと口に出したり泣いたりしてくれたことが本当に嬉しかったし謎に安心したりなんかもしてしまった。

全ての殻を剥いだそこにいたのはSEED序盤の頃を思い出すような弱々しいキラ・ヤマトでありその引き金となったのがずっと傍にいたラクスということも、そのキラの感情を引き摺り出したのが親友のアスランだというのも全部込み込みでじわっと胸に沁みるような感動を覚えた。

今まで不透明に感じたラクスに向けるキラの感情が恥ずかしいくらいすっきりと見えたし何気に今まであまりなかったアスランの新鮮なくらいストレートに熱血なザ・親友感も見られたのが本当に最高だった。

言いたいことはアスランが言ってくれたし聞きたい言葉はキラがちゃんと言ってくれた。これだけで100点満点以上ですSEED FREEDOM。

そしてそのアスランはそりゃ映画公開後トレンドに入るのも納得なくらいにおもしれー男だった。
コズミック・イラで最も自由な男は多分アスランだろう。
そう思わせるほどに生き生きとしていた。

キラを殴るアスラン
あまりにもアスランが強すぎる今作。やはり最強はアスラン・ザラか…

真顔でズゴックで大暴れしたりキラと熱い殴り合いという名の一方的な暴力&説教を振るったりカガリのスケベを妄想したり1人だけクロスアンジュからやってきたとしか思えない無茶苦茶っぷりを見せてくれたアスラン・ザラ。
長い年月の中ネット上で散々アスランがネタにされてきたことや劇場版SEED前に「あの」クロスアンジュの制作が挟まったことなどある意味で18年の様々な積み重ねが生んだ奇跡の立ち回りだったと思う。
何をしても面白いし何を喋っても面白い、やっぱりガンダム界の橘朔也かもしれないこの男。

そしてシンだよ!
DESTINYの頃よりも幼くなったんじゃないかというくらいに子犬感の増したその姿はあの狂犬はどこへといった変わりぶりではあるがきっとこれが本来のシン・アスカなのである。

キラの部隊の一員であることを誇りに思いキラみたいな戦い方をしてキラに頼られるにはどうしたら良いのか悩んだりとにかくその脳内はキラキラキラキラキラたまにルナマリア。

キラに危害が及べば相手に向かって行き(ボコられるけど)キラに頼られれば満面の笑顔で「はい!」と元気よく返事をしお前こんな可愛い奴だったのか…とDESTINYの頃との落差に驚きはするもDESTINYの頃は精神的におかしくなっていたことがよく伝わってくるし空白期間中キラ達と過ごすことでここまで回復できたんだなと感慨深くもなったり。
(ムウ、カガリとの仲直りは完了しているとのことだけどその辺スピンオフで見せてください福田監督)

また、新キャラのアグネスやハインライン、コノエ艦長らも前から出てたんじゃないかというくらい画面に馴染んでいたしそれぞれここだけでは語り尽くせない魅力に溢れていた。
特にアグネスは面白いというか、DESTINY直後に予定通りに公開されていたら「ああ」はなっていなかったんじゃないかと思わせる面白い立ち回りをみせてくれた。
(なんか宇宙世紀にいそうな女だなと思ったせいかも。)

普通ならあの手のキャラは鬱陶しかったりイライラさせられたりすることが多いはずなのだがアグネスはその辺が全部彼女の面白さに繋がっていてズルい。

シン、ルナマリアとの掛け合いで二人の良い表情や反応を引き出してくれたり古典的な嫌な女ムーブが行くところまで行くともういっそ愛おしくなってしまう典型を見せてくれて個人的にかなりお気に入りになったキャラだ。
名前もいいよねアグネス・ギーベンラート、響きが良い。

アグネスももちろん、ハインラインやコノエなど掘り下げる余地と魅力が詰まった新キャラばかりなのでたくさん外伝作られてほしいところ。

モビルスーツ

そしてガンダムならば欠かせないMS戦。
これもキャラクター描写同様素晴らしかった。
やりたい放題で。

TVシリーズと比べかなりCG色が濃くなった戦闘シーンではあったがかなり迫力ある仕上がりかつ細かい描写が詰まっていて一度や二度見た程度では把握しきれないくらいの密度になっていた。

CGをフル活用した甲斐あってテレビシリーズの頃のような戦闘バンク多用しまくりみたいなこともなく頭からケツまでずっと鮮度が落ちない派手な戦闘シーンを見せてくれたわけだがSEEDを観てきた人にとってはかなりの驚きポイントじゃないだろうか。
しかしやはり多用される戦闘バンクにSEEDを感じる部分もあるので無いなら無いでむしろ寂しさを覚えた人もいるかもしれないけど。

あと劇場版の看板モビルスーツとして当初紹介されていたライジングフリーダム、発表時は不安視する声が多く聞こえたけどそれらを払拭するカッコいい活躍を見せてくれた。
個人的な癖の話になるのだがロボットってボロボロな姿をいかに印象的に客の前に晒せるかが重要だと思っていてライジングフリーダムはそこを見事にクリアしてくれて素晴らしかった。

「いや普通にキラ死んだだろそれは!」とツッコみたくなるくらいにライジングフリーダムがボコされるシーンは良すぎて芸術だった。
(よくわからないけどいつも通りかすり傷で済むキラの生存能力の高さも込みで芸術点高い)

物語的にはストレスのピークとも言える瞬間なのだがとにかくあの瞬間僕は気持ちよくなってた。
シュラにもお礼を言わねばなるまい。

そしてそれをフリにしたかのように登場するズゴックは笑いとカッコよさを両立していてズルかった。あんなん好きにならん奴がおるんか。
当のアスランが真剣なのがまた面白くて…
ズゴックを破壊しても中からHP満タンのインフィニットジャスティスが出てくる反則技もズルい。
とにかくズルい。
こんな面白い奴がいたらそりゃあ公開して数日のトレンドがアスランとズゴックにもっていかれるよ。
メタルビルドあたりでギミック完全再現して発売してくれ。

フリーダム、ジャスティスと来たなら当然触れなくてはなるまいデスティニー。
アイツは強かった!強かったんだよ!と言い続けても中々友人に信じてもらえない苦渋を舐めた20年の歳月に報いてくれたような気持ちになる獅子奮迅の活躍だった。
活躍しすぎ暴れ過ぎでもうギャグに足を踏み入れていた。
それくらいに強いデスティニーを見れたのだ。
都合の良い夢かもしれないと思った。

あまりの強さに観た者は知るであろう。「DESTINYの時のシンはメンタル不調すぎて実力発揮しきれてなかったしデスティニーはちゃんと当時最強クラスMSだったんだな…」と。
どう見ても多重影分身の術使ってたよデスティニー。

あとインパルスもとても良かった。テレビシリーズの頃はシンが乗っていた時の戦闘バンクの流用が多いせいかルナマリアの機体っぽさを感じづらかったのだが今作では深紅に染まるソードインパルスなどのお陰もあって「ルナマリアのインパルス」をちゃんと見れたような気持になれて嬉しかった。

そして個人的に一番驚いたのがストライクフリーダム。
何に驚いたって自分自身の感情にだ。
カッコいと思ってしまったのだ。

DESTINYの頃のストライクフリーダムはどうしてもそこまで好きになることが出来なかったというかデザイン云々の話ではなくただ「良い!!好きだ!!」と思えるエピソードが個人的に無かったのだ。(VSデスティニー展開さえあればどうだっただろうかな…)

ほぼノーダメージでキラキラと戦場で輝きながらポーズを決められてもそれをかっこいいと思えるタチじゃないのがこれでもかと災いしたケースであると我ながら思う。
だが今作では終盤のジワジワ削り取られながらも懸命に応戦する姿が描かれそこがたまらなくカッコよかった。
キラの成長という物語の相乗効果もあってかすごく興奮させられたのである。
相手の怒涛の攻撃から背面をドラグーンで守りつつ飛ぶところなんかもう最高だった。
ライジングフリーダムもそうだったけどやはりズタボロになる光景って一番ロボットが輝いてるんすよ…
その後のマイティストライクフリーダム登場の演出も素晴らしかったけどやっぱり個人的にはその直前のボロボロシーンが堪らなく好き。
20年越しにやっと気づくことができたよ「ストライクフリーダムはカッコいい」と。

一体何なら為し得ないのだと言いたくなる化け物アカツキとかミーティア装備のデュエル&バスターなどメカニック周辺で語りたいところが無数にあるのだがキリがないので最後にミレニアムについてだけ触れたいと思う。

今作はMS戦だけでなく艦隊戦の満足度も非常に高く、中でもメイン戦艦であるミレニアムが凄かった。
艦長交代ドラマもあるおかげで前半と後半でミレニアムの動きや戦い方の違いがはっきりと見て取ることができること、それによってマリュー、ノイマンらアークエンジェル組の異常性が見えやすくなるなどドラマと艦隊戦を絡めてキャラ掘り下げも可能な素晴らしい仕上がりの艦隊戦だった。

乗組員ゲロ袋必須の超絶技巧ドライブテクニック、攻撃を避けることすらしない猛将ぶり、まるで西住流の如く危険な場所に露出する艦長席…ミレニアム周りの描写だけでもとんでもない満足感である。

ガンダムシリーズ全体を通して見てもかなりの満足度がある艦隊戦じゃないだろうか。

コノエ艦長の時はちゃんと戦艦な動きしてたのに終盤はもうモビルアーマーだったよミレニアム。
コズミック・イラの真ゲッタードラゴンだと思う。

出そう、ミレニアムのプラモ。絶対売れるから。

最後に

ストーリー、キャラクター、メカニックどれをとっても満点じゃ足りないくらいの点数を叩き出しながらSEEDの世界を新しく一歩先に踏み出させてくれた素晴らしき劇場版SEED FREEDOM。

公開前は逆シャアのようにシリーズに一区切りつくような、ともすれば完結編のような映画になるかもなと思ったのだが意外とまだまだやれそうだぞ?いや観たいぞこれは?となるような内容になっていたので是非続編ないしは関連作品で更にSEEDの世界を見せつづけて欲しい。

当初OVAとして制作予定だった今作を補完するフリーダム強奪事件も(売上とか諸々大人の事情がクリアされ次第だろうが)脚本は完成しているので何らかの形で世に出る可能性が匂わされており是非とも実現して欲しいところ。

フリーダム強奪事件に限らずジャンジャン外伝出してくれてもいい、いつかその積み重ねの先に宇宙クジラが襲来してくるかもしれない(ない)。

コズミック・イラの諸問題にひとまずの解決が齎される日が来るのかはわからないけどきっとこの先もキラ達は世界と向き合い続けるし思い悩み苦しむこともあるだろう。
その一端を、ほんの一つまみでもいいから観たい、観れるかも、そんな期待を与えてしまったのだこの罪作りな映画は。

もう行けるところまで行ってくれSEED!!
死ぬほど売れろ!!(※売れてます)

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