最高の仮面ライダー映画がここにまた一本生まれちまったようだな…
はい、というわけでシン・仮面ライダーのお話を。
個人的には大傑作。
…なのだがシン・ゴジラほど万人受けするかというとそういうわけでもなく、シン・ウルトラマン以上にマニア向けで、良く言えばこれまでで最も庵野秀明監督のオタクとしてのこだわりが強く、悪く言えば仮面ライダーを知らない層からすれば一般ウケの良かったシン・ゴジラあたりと比較されて「つまらない」だの「面白くない」だのといった意見が出るのまあ仕方ないかもなとは思う。
だけどだ。
だけど面白かったんだ…!
確かに面白かったんだよシン・仮面ライダーは!!
とまあ感情昂らせるのはこの辺でほどほどに話を進めよう。
今作のように初代仮面ライダーをリブートした例は過去に「仮面ライダー THE FIRST」が存在するがシン・仮面ライダーはそちらよりももっと原点回帰の色が濃い。
特撮版だけでなく漫画版のオマージュも取り入れながらより初代仮面ライダーに近い質感を維持しつつ、その上で多彩な現代アレンジが為されており庵野秀明監督の仮面ライダーに対する強いこだわりと愛を感じさせる仕上がりとなっている。
耳奥に染みついた懐かしさのあるSEとBGM、荒々しいカメラワークやカット、数々の演出(特に泡!やると思ったよ!!庵野さん!!)はかつての仮面ライダーを彷彿とさせるものである一方、今作オリジナルの設定や再構築されたキャラクターは懐かしさの中に新しさも感じさせる。
初代仮面ライダーにはまだこれだけのアプローチが可能だったのか…という驚き、そして今作の奥行の広さを感じさせる世界観への感動、昔から庵野監督すごいなと思っていたはずなんだけどその評価が全然足りてなかったことをシン・仮面ライダーで思い知らされた。
初代とシン
前述のようにこのシン・仮面ライダーは初代仮面ライダーに現代的なアレンジを取り入れつつリブートさせた作品となっているわけだが、まあ当然ベースとなっているのは旧1号編である。
旧1号編をベースにしているのだからそりゃあ映画に漂う空気は常に暗く重い。
というのもこの旧1号編、怪奇ホラー色が異常に強くその影響で画面も暗ければキャラクター達のテンションもどこか抑え気味。
旧1号のカラーリングの暗さも相まってとにかく画面から重い印象を受ける。
その上仮面ライダーになってしまった本郷猛の人間と改造人間の狭間で苦悩する描写も挟まるのでもうとにかくヘビーオブヘビー。
これをベースにすれば当然映画の空気はかなり暗いモノとなるだろう。
ていうかなってた。
怪人も元を辿れば本郷猛と同じ人間。
目の前にいるのは脳改造を施された、ともすれば自分もそうなっていたかもしれない存在。
怪人を倒すということは同族を殺すということ。
そしてどれだけ傷つき人類の為に闘おうが本郷猛が人に戻ることはないその不可逆性。
これら仮面ライダーという存在の悲哀と孤独が詰め込まれた旧1号編。
今作ではそれを強調するかのように殴った相手から血が吹き上がる。
命を奪っている事実を突きつけるかのように頭を砕き内臓を潰し辺り一面に血をまき散らしていくその映像はショッキングだが仮面ライダーの悲哀や暴力性を描く上で説得力充分のインパクト。
池松壮亮さん演じる本郷猛の表情や声がその悲惨さをより引き立てていて最高だった。
葛藤の末闘い勝利して喜ばしい一方、心がズタズタに傷ついている孤独なヒーローが確かにそこにいた。
池松さんの辛そうな、悲しそうな顔ッ!!
解釈一致の本郷猛の葛藤!悲哀!孤独!!
声を震わせ自分の力に怯えながらも前に進み続ける君の姿に興奮してしまったよ!
良くない方向に脱線しかけたので話を戻そう。
今作は暗いばかりではない。
原典がそうであったようにシン・仮面ライダーも「変身」する。
藤岡弘、氏の怪我により撮影困難になった初代仮面ライダーに投入された仮面ライダー2号こと一文字隼人。
変身ポーズの誕生や彼の持つ明るいキャラクターも相まって仮面ライダーはおなじみのヒーロー活劇番組へと進化し多くの人々に受け入れられることとなった。
シン・仮面ライダーでも一文字隼人の登場が大きなターニングポイントとなっている。
孤独や悲哀を秘めつつもそれをセリフ回しや仕草一つ一つで覆い隠す一文字隼人の表面的な明るさがとにかく辛気臭い奴らだらけのこの映画に明るさをもたらしてくれた。
(見事に一文字隼人を表現し演じきった柄本佑さんの演技力の凄まじさよ…)
旧1号編から旧2号編に移り変わる中仮面ライダーという作品が明るい方向へと進み始めたことをシン・仮面ライダーは一文字隼人を投入することで表現したのだ。
あまりにも見事。
当時の主役交代の背景を物語上に落とし込んだのであろう足がひしゃげまともに動ける状態ではない本郷猛に代わり派手に立ち回る一文字隼人のシーンは特に印象的だった。
それまでの空気とは一転、仮面ライダー第2号の闘い方の豪快さ飄々とした口ぶり、なんかなんとかなるかもしれんみたいな妙な安心感、一文字隼人が新しい風をこの映画に吹かせたのだと勝手に初代と脳内で結びつき強烈に感動してしまった。
この番組の方向性の変化はファンの間で何度も語られたことであるにも関わらずこれを物語の中に落とし込んで表現したライダー作品は今だ存在しないように思う。
何度も言うが、見事…!!
主人公・緑川ルリ子
今作の本郷猛と一文字隼人は再構築されてはいるもののその根幹はオリジナルから大きく外れてはいない。
悲哀的な成分が多少押し出されてはいるもののそのキャラクターを違和感なく受け入れることができるし遊びやこだわりなども感じ取ることができ庵野監督がオリジナルのこの二人を大事にしてくれていることが伝わってくる。
(あとコーヒーを嗜む本郷猛って藤岡弘、さんからフィードバックされた設定だよね)
と、オリジナルを尊重しそこから外れすぎないように丁寧に作られた二人に対して大胆にほぼ別人に仕立て上げられたキャラクターがいる。
そう、浜辺美波さん演じる緑川ルリ子である。
オリジナルでは普通の女子大生。
父親の死を契機に本郷猛やショッカーと関わっていくことになるのだが旧1号編の終了と共に本郷猛を追ってヨーロッパへと旅立ちそれ以降は物語からフェードアウトしてしまう。
そのうちまた出てくるんだろうなと思ったら出てこなくて「こんなおいしいポジションのヒロインが何故…」と困惑した思い出。
今作ではそれまでのイメージを一新しロングヘアーをショートに、守られてばかりだったかつてとは違い戦闘もサポートも卒なくこなし戦力に数えても遜色がなく、極めつけには何も知らない女子大生ではなく出自がショッカーという物語的にも重要すぎるポジションでの活躍を見せた。
立ち位置的には滝和也に近い印象を受けたがそれともやはり違う。
仮面ライダーを象徴する重要なファクターのマフラーとマスクに大事な意味や役割を与えるなどやることなすこと重要なことばかりするオリジナルとは似ても似つかないインファイター。
オリジナルのキャラと同じ名前を持ちながら今作の独自性に足が生えたような存在。
緑川ルリ子はザ・守られるヒロイン像から物語に鋭くステップインし重い打撃を放つ女としてリブートした。
冷たい印象を与えるルリ子が物語の進行とともに本郷猛に心を許しその閉ざした心が解れていく過程が丁寧に描かれていて大変良い。
印象的なのがハチオーグ戦。
ルリ子の友達でありショッカーの幹部でもあるヒロミを倒さなければならないルリ子の使命と友情の狭間で苦悩する姿が描かれた。
おそらくこれは初代仮面ライダーにて本郷猛の友人である早瀬五郎がさそり男に自ら望んで改造され本郷猛の手で倒された回のオマージュ。
本郷猛自身は早瀬を友と信じていたが当の早瀬は本郷猛への強い嫉妬や劣等感に塗れていたという3話にして随分とドロドロとしているものの、たとえ親友でも改造人間として人類を脅かすなら倒さなければいけない仮面ライダーの使命と悲哀を感じさせる回。
わざわざハチオーグにオリジナルでも緑川ルリ子の友達として登場した野原ひろみから名前をとりヒロミと名乗らせルリ子との間にすれ違い愛憎劇をさせたのは確信的といえるだろう。
本来ライダーを通して描かせる物語の一部をルリ子に任せたあたり、シン・仮面ライダーという作品において緑川ルリ子は本郷猛に並ぶもう一人の主人公だったといえるだろう。
これ以上語ると致命的なネタバレをしそうになるにので控えるがハチオーグ戦以外での描写も含め、仮面ライダーの孤独、悲哀、継承を描くために緑川ルリ子は欠かせないキャラクターだった。
シリーズ全体を通して見てもこれから長く語られ続けることになる名キャラクターになったんじゃないかなと思う。
怪人=オーグメント
仮面ライダーを語る上で忘れちゃならない奴らがいる。
イエス、怪人。
今作ではオーグメントというなんかいい感じの響きに名前がアレンジされどいつもこいつも生き生きと暴れてくれた。
これだよこれ!!
単なるライダーを引き立たせるためのやられ役ではなくオーグメント一人一人にしっかり背景や個性があることを感じることができるドラマの畳みかけでテンション上がってしまった。
オーグがそれぞれの領域と幸福論で好き勝手にする個人主義者でありショッカーはその集まりのように描かれるおかげでオリジナルの同じ組織に属していながらやることバラバラなトンチキ作戦の数々もなんか上手い具合に令和ナイズされててそこがなによりとんでもなく上手いなと。
ショッカーの成り立ちも現代アレンジがなされていてオリジナルより無機質で混沌とした印象。
これのおかげでオーグ達の好き勝手っぷりが補強されているところもあるので結構練られた設定であるように感じるし庵野監督的にはまだまだオーグメント達の構想あったんじゃないかなと。
いやすみません。僕が見たいだけです。
全怪人のオーグ化。
悲しみを噛みしめて闘う仮面ライダーの対比として最高の相手でしたシン・ショッカーの皆さん。
(話思い切り逸れるけどハチオーグ戦で日本刀使うライダーにオリジナルで戦闘員の武器を奪って戦う姿を思い出して堪らなかった。ありがとうハチオーグ。ありがとう。)
まあとりあえず一言
ハチオーグ、お前はフィギュアーツになれ(差分ボディ付きでな!!)
最後に
なるべく致命的なネタバレはしないようにここまで色々書いたけど公式がガンガン気にせずやってるからもっと攻めてもよかったかもなあと思いつつもそろそろ終わろうと思う。
庵野監督の強いこだわりによって作り上げられたシン・仮面ライダー。
仮面ライダーという番組のエッセンスを詰め込みそこに懐かしさと新しさを共存させこの時代にこれほどの愛をささげ初代仮面ライダーをリブートしてくれたことに感謝したい。
多くの仮面ライダーが混在しているものの初代をわざわざ見ようとする人が減っている(と個人的に思っている)中、「仮面ライダーとは何か?」というそもそもの原点を知るためのきっかけとなれる作品が令和の世に誕生したことは嬉しい。
初代仮面ライダーへの興味がわく効能もこの映画にはあると思うので、これがライダー初見だよ!という人がこの映画をきっかけにそのままどでかい沼にハマってくれたら幸いである。
それはそれとして今まで仮面ライダー触れてこなかったけどシン・仮面ライダーがツボにはいって何か仮面ライダー見たくなったなあという人には個人的にはZOとクウガをおススメしたい。
いきなり初代から突っ走れる人は少数派だと思うので。
ちなみに僕は仮面ライダー1号(太鼓の達人する方)を観返したくなりました。
あと余談ではあるが先日NHKで放送された『ドキュメント シン・仮面ライダー』がかなり凄くて良かった。
この映画は関わった多くの人間の血反吐そのものだなと思えてこれを踏まえることでかなり映画の解像度が上がるような気がした。
特に初見では「あー泥臭い生っぽい闘いが撮りたいんだろうけどちょっとやりすぎでは?」と引き気味に感じたチョウオーグ戦なんかはこの番組を見ているとかなり気が引き締まった状態で観れると思う。
こだわる庵野監督の執念にもそれに応えようとするアクション班や俳優陣にも敬意しかない。
僕だったら失踪してる自信がある。
いや良く完成したな…
まあとりあえず今回はこの辺で
もっと時間経ったら触れないようにしたところにも触れた記事書きたいっすね