-見せてやる、極上の地獄をー-
※結構ネタバレあるので注意
押切蓮介先生の漫画版を原作とした実写映画版のサユリ。
見るぞ見るぞと息巻いておきながらだいぶ遅れての鑑賞。
一応原作は既読済み。
同作者の作品としてはミスミソウの次に好きな作品がこのサユリ。
完成度としてはもしかしたらそのまとまりの良さにテンポ感爽快感込み込みで総合的にあのミスミソウさえも凌いでいるかもしれない傑作ホラー漫画である。
ミスミソウの映画化がいけるならサユリも来てくれと願ったものだがそれがまさかの白石晃士監督によって叶うとは。
コワすぎシリーズを鑑賞済みかつサユリも既読済みの人間からすれば納得感しかない人選だろう。
かえって期待しすぎてずっこけないか心配になるくらいではあったが。
いや良かったですね!
いい実写化!!
要所要所に改変があり一部については思うところがない訳でもないがそれでも作品の持つ大事な部分を損なわない良改変だったなと思うので新解釈サユリ的な視点で結構楽しむことができたかなと。
元々サユリは前後半で空気感が一変する2部構成に近い作品。
Jホラーのように容赦なく降りかかる理不尽な前半とそこから後半に描かれる理不尽への反抗。
この変化の緩急と爽快感が作品の醍醐味とも言える。
そんな空気感が一変した時の感触が映画の中でもきっちりと伝わってきたのが何よりも素晴らしかった。
まず前半の理不尽パートのえげつなさと勢いが原作とは違う箇所がいくつもあるにはあれどその精神性はしっかりと継承した上での実写表現になっていてこれが本当に良かった。
洗面台のある場所に「なんか怖いな」と違和感を覚えたりとか、1箇所をずっと見つめてるおばあちゃんとか、起きたら消したはずのテレビがつけっぱなしになっているとかそういう日常の中に溶け込みじわっとくる怖さも組み込みつつその上で吹き抜けからの子供の転落死とか自分で包丁を首に突き刺し白い壁が真っ赤な鮮血に染まっていく姉の死に様とか幸せから一転した地獄のような畳みかけで観客を圧倒したりと前半部分だけでもかなり怖くて目が離せないホラーになっていたなと。
もっとコワすぎを思い起こさせるような遊びがあったりするかな?と思っていたら少なくとも前半部分はしっかり真正面からJホラーを作ってくれていてただでさえ高い白石監督への好感度が更に上がりましたよ。
まあどう見ても市川な高校教師がいたり聞き覚えのありすぎる龍玄とかいう霊能力者が出てきたりはしたけど。
多分あの龍玄先生は歴代最弱の龍玄。
(シンプルにばあちゃんにフィジカルでねじ伏せられていたし)
連続でサクサクっと姉、弟、母が目の前で悲惨な死に方をしておばあちゃんが覚醒、という流れは原作以上に勢いがあって見応え十分。
しかしまあこれはこれで大好きなんだけど必死に止めようとする則雄をよそに扉一枚隔てた向こうで母親が首を吊ってしまい心が折れる則雄、こだまするサユリの笑い声、という原作の絶望感は原作からちょっと薄まったなとそこはもったいなく思いつつ、いやでも映画のこの勢いもかなり好みだしなと、1人で勝手に苦しみました僕は。
弟・姉・母の死体が消えないことも原作との大きな相違点ではあるんだけどこれは残された則雄の絶望を更にプッシュしていく要素になっていてアリだったかな。
収納袋に詰められ運ばれていく家族の死体とか姉の血で染まった壁を拭き掃除する則雄の姿とか家族の喪失という事実を映画ならではに明確に則雄と観客に突きつけてて真っ直ぐに残酷で良かった。
あと家族周りが陰惨極まりない分住田が出てくるシーンが癒しすぎてたまらなかった。
原作でも立派にヒロインしていた住田が近藤華さんの名演によって更に魅力溢れるキャラになってた。
おばあちゃんと並んで原作越えを果たしたキャラの1人になっていたとすら思う。
則雄に初めて声をかけるシーンの目線が斜め下をずっと見ていて早口かつ独り言混じりと解像度高すぎる隠キャっぷりがもう最高でしたね。
則雄のことが心配すぎてハンマーで鍵ぶっ壊して家に入ってくるあたりのパワフルさは映画オリジナルだけど面白さと可愛さが両立しててすごくいい。

出会いのきっかけはサユリの呪いという物騒なものだし繋がりもそれによって保たれ続けている関係ではあるんだけどどこか「いや青春してるな則雄…」感は原作より強めに表現されていたしちゃんとこの2人のアオハルが終盤に向けた大事なファクターになっていくのは非常に巧くてこれは流石の白石監督だなあと。
死んだ人間が生きてる人間に勝てるわけねーだろ!飯食え!体鍛えろ掃除しろ心を強く持て!!命を濃くしろ!!という力業ではあるがどこか「た…確かにそうかもしれん!」となる理屈ゴリ押しで状況を打開していく作品なんだから好きな女を求める10代少年の活力だって当然悪霊に一打与えるだけの力を持ったっておかしくないわけで、住田との関係性強調もきちんと作品のテーマに則った原作リスペクトの変化になっていてもう大変に良かった。
なんかちょっと終盤『翼をください』が流れそうなところもあったし。
とまあ住田関係に限らず他の改変部分も結構上手いことやってたなと思うんだけどその中でも特におおっと唸ったのはおばあちゃんと則雄が太極拳の修行を始めるところ。
怪異をぶん殴りまくってきた白石監督らしさもあればどこか押切作品らしさもあって、オリジナルの要素であるはずなのに原作に最初からあったかのように馴染んでいて見事な改変。
終盤サユリに太極拳で対抗するという映画的な見映えに貢献するだけでなくちゃんと命の濃さで対抗する作品の根幹も守っていて本当にこれは見事。
ダメージを負いながら立ち上がってサユリに立ち向かうばあちゃんとか好きな女を救うためにサユリの攻撃を太極拳ではらいながら進んでいく則雄とか今ここに生きている人間の生命力を、更に映画としての山場、それらをわかりやすく表現するためのオリジナル要素としてかなり綺麗にピースが嵌まった改変だなあと。
原作だとサユリってばあちゃんの怒涛の精神攻撃で結構あっさり崩れていくからね。
原作の場合そのあっさり崩れていく様にこんなやつになんで家族がメチャクチャにされなくちゃならなかったんだよというやるせなさと怒りが込み上げてくるのだが。
映画のサユリは強かった。
色んな意味で。
まさか原作からうって変わってバールで物理的にぶん殴ってくるタイプの怖い奴になってるとは思わなかったし。
しかもいかにもなほっそり黒髪悪霊スタイルじゃなくてメタボ体型。
これにもしっかりと意味があったのは流石というところなんだけど当然ここは賛否が分かれそう、というか僕はどっちかというと原作の方が全然好み。
ただあくまでも白石監督による新解釈サユリ、として見るとアリ。
こういう形のサユリもあるんだなくらいには新鮮に見れた。
あくまでも個人的な好みが原作というだけでしかないわけで。
原作だとあえて深掘りされていなかったサユリの過去も映画版ではサユリが父親から性加害を受けていて母はそれを見て見ぬふりをし続け、自分を守るためサユリは父親が好きだった長い黒髪をバッサリと切り性的魅力を少なくするためにお菓子を大量に食べるなど不摂生を続けメタボ体型に変わってしまった、というオリジナル設定を導入。
と、かなりサユリへの同情票が流れ込みそうな大胆改変になっているしサユリの抱える家族というものへの憎悪も原作以上に強い。
なのでサユリの家族の顛末もかなり原作と違うしサユリとの戦いの流れもかなり変化してしまっている。
サユリの家族を痛めつけたりすれば原作だと泣きながら動揺しちゃう可愛いところが見れるサユリも映画だと家族への怒りがすごいのでバールで家族を殴るわ刺すわ目潰するわとやりたい放題で原作との差に笑ってしまった。
そのおかげで太極拳の出番もあったし不屈の闘志で立ち上がるおばあちゃんという格好良い絵面も楽しめたからそこはまあ良かったんだけどやはりサユリの掘り下げをじっくりとやったせいで原作終盤怒涛の畳みかけと爽快感はだいぶ薄まってしまったかなとそこは残念に感じた。
残念ついでに言っちゃえばラストの住田とおばあちゃんと歩くシーンも酷い目に遭って失ったものばかり多い最悪な思い出だらけの家を思い出しながら、「それでも楽しい想い出はあった」と則雄が肯定するセリフがなくなってたのも大分まじかーとなっちゃった。
目を背け逃げるんじゃなくて、自分の中で想い出という形で家族を生かし、自分も前を向きこれからを生きていくという切なくも生きる人間としての強さを則雄が見せる場面で大好きなんだけどね。
ただまあしんみり終わった原作と違って映画はちょっとおふざけもいれつつ基本的にはおばあちゃんの名台詞で落として人生生きてくか!!って気持ちにしてくれるような終わり方になっていたと思うし、映画の方向性を考えた時にウェットになりすぎないように意識していたような気はするからこの改変も素人には及びがつかないくらいに議論が交わされた末のものなんだろうなと。
ウェットに描かれすぎたくらいのサユリとその家族周りに対して過去ではなく未来に目を向け前向きに進もうとする則雄たち、みたいな対比は結構意識してたんじゃないかな、ないかな?どうだろ。
まあ何はともあれおばあちゃんですよ。
おばあちゃん。
すっごい良かったねおばあちゃん!
この作品の一番大事な核と言っても差し支えないくらいに重要なキャラクターなのでこのおばあちゃんの暴れっぷりをどれくらい再現できるのかが最重要課題だったわけで一番厳しい目を向けられる点でもあったと思うんです。
いや正直原作以上だったんじゃないか?映画版おばあちゃん。
狂気的な頼もしさが原作よりマシマシになってて素晴らしい。
タバコ片手にゲラゲラ笑いながら車を飛ばすシーン、銭湯の店先でタバコ吸いながら座ってるシーン、太極拳の手解きをするシーン、原作にはない場面すらまるで存在したかのような確固たる存在感を放っていて根岸季衣さんの名演がとにかく冴え渡っていた。
もう表情も動きもすごく良いし何より声がすごくいい!!
スーパーロボットにでも乗ってる?ってくらいかっこいい声でかっこいいセリフを言いながらめちゃくちゃ頼もしい存在感を放つのでこれは見た人全てを虜にすること間違いなし。
話がわからなくても怖いのが苦手でもこの根岸季衣さん演じるおばあちゃんだけは見逃してはならないと思う。
なんかゲームとかに実装されてくれ。何かしらの形で操作させてくれおばあちゃん。良すぎるぞ。
覚醒してる時のかっこいい姿も素晴らしいんだけど同じくらいボケてる時の姿も最高だった。
数年以内に寿命を迎えそうな雰囲気からあと100年は死ななそうなパワフルな姿に切り替えられるその演技力の緩急の凄さ、感嘆である。
コワすぎ世界でもそこそこ戦えそうなくらいには貫禄があったよ。
もっともっと話題になって良いと思うよこの映画のおばあちゃんは。
『来る』のまとめて行動して死ぬのを避けるために分散行動をとるベテラン霊能力者たちくらいには人気になってほしい。
とまあ賛否並べつつも個人的には高評価な実写映画版サユリ。
もちろんあそこ見たかったーとかここ変えちゃったかーと肩を落とす部分もあったしそれ以上に期待を超える演出やオリジナル描写なんかも挟まったりしていて総合的には結局褒め称えることになる、みたいな映画だった。
減点方式でなく加点方式だと強いタイプ。
そもそも住田とおばあちゃんだけでも100点超えてるからね。
そしてしっかり丁寧に積み上げた恐怖描写と心底酷い気持ちにさせてくれる不条理感、それを吹き飛ばすおばあちゃんと則雄の復讐ターンのエネルギッシュな眩さ、楽しかった部分が多すぎたしちゃんと白石監督らしさも押切先生らしさも出た奇跡の一本になっていたと思う。
霊に負けっぱなしで見終わった後にはドヨーンとなりがちでそんなところが嫌いだなとJホラーを嫌う人たちにこそ見てほしい一本。
そして気づいて欲しい「あれ?悪霊と戦ったって良くねえ?」ということに。
そして増えて欲しい。
リベンジバトルJホラー。
などとそんなことを思いつつ、そろそろこの辺で。
あ、最後に。
ツバキも実写化して良いんですよ?(性的描写がエグいけど)
